鉄道荷物会社

鉄道荷物会社とは、かつて国鉄（現在のJR）の小荷物輸送を支えた関連企業群です。主な業務は、駅構内での荷物の積み下ろしや仕分け、トラックによる集配など、小荷物営業に不可欠な作業を受託していました。1986年の国鉄による小荷物営業廃止時には、全国に21社が存在していました。

概要

鉄道事業の中でも、小荷物営業は特に人手を必要とする分野でした。駅での荷物の受け渡し、仕分け、保管、そして荷物車への積み下ろしなど、多くの人員が不可欠でした。しかし、季節や曜日によって物量に変動が大きく、人員配置の調整が課題でした。国鉄自体も人員削減を進める中で、これらの業務を外部委託することで効率化を図る必要があり、その受け皿として鉄道荷物会社が設立されました。

21社あった鉄道荷物会社は、それぞれ異なる特徴を持っていました。小荷物輸送を専門とする会社もあれば、車両の清掃や整備、施設の管理、鉄道用品の輸送など、多岐にわたる業務を兼務する会社もありました。1980年代に入ると、駅構内での作業に加えて、国鉄の荷扱車掌に代わって作業員が荷物車に乗り込み、荷役や車内での仕分け作業を行うようになりました。

また、多くの会社が早くから貨物自動車運送業も手掛けていました。これは、国電区間での荷物列車の代行輸送や、地方線区や国鉄自動車路線での荷物輸送の代行、託送手荷物の配送などのニーズに対応した結果でした。

鉄道荷物専業またはそれに近い会社の例

東京鉄道荷物（株）
大阪鉄道荷物（株）
北海道鉄道荷物（株）
新潟鉄道荷物（株）
北関東鉄道荷物（株）
湘南鉄道荷物（株）
岡山鉄道荷物（株）
米子鉄道荷物（株）
広島鉄道荷物（株）
四国鉄道荷物（株）

業務の一つとして受託していた会社の例

水鉄開発（株）
中央開発（株）
中部国鉄用品運輸（株）
長野鉄道車両整備（株）
福鉄開発（株）
分鉄開発（株）

小荷物営業の変動と鉄道荷物会社

高度経済成長に伴う輸送需要の増加や、新聞・週刊誌の普及による輸送量の増加に対応するため、鉄道荷物会社は重要な役割を果たしました。1970年代後半に宅配便が台頭してからも、国鉄と共に小荷物輸送を支え続けました。1980年代前半の鉄道情報誌には、鉄道荷物会社や従業員の活動が写真付きで紹介されることもありました。

宅配便に対抗するため、国鉄は小荷物営業の強化を図り、「宅配鉄道便Q」や「ひかり宅配便」といった新サービスを導入しました。これらのサービスでは、鉄道荷物会社がトラックによる集配輸送を担当し、全国的な輸送ネットワークを構築しました。しかし、これらの新サービスも利用が伸び悩み、1986年に国鉄は小荷物営業の廃止を決定しました。この時点では、小荷物輸送ネットワーク自体は維持する方針であり、「ひかり宅配便」はブランド名を変更して鉄道荷物会社に移管し、荷物列車の代わりに鉄道コンテナで幹線輸送を行う計画もありました。

国鉄の小荷物営業の全廃は、鉄道荷物会社にとって駅での荷扱い業務の喪失を意味し、大きな打撃となりました。「ひかり宅配便」の営業移管も、特に取扱量の少ない地方の会社にとっては重荷でした。21社のうち6社が「ひかり宅配便」から撤退し、乗車券の宅配や「ひかり直行便」といった新規事業に挑戦する一方で、多くの人員削減を余儀なくされました。雇用調整助成金を受けながら人員整理を進め、国鉄分割民営化を迎えることとなりました。

現状

1987年のJR発足に伴い、鉄道荷物会社もJR各社の関連企業となりました。多くは旅客会社系列となりましたが、運輸業を継続する会社の中には貨物会社系列となった例もあります。ごく一部では、新幹線レールゴーサービスやブルートレイン便などの荷扱い業務が継続され、鉄道荷物会社としての名残を残しています。運輸業から撤退した会社は、車両清掃や駅業務の受託、施設の管理などを手掛けるようになり、社名変更や企業統合を経て、そのルーツを辿ることが難しい会社も少なくありません。

JR旅客会社系の運輸系企業となった例

（株）ジェイアール東日本[[物流]]（旧･東京鉄道荷物（株））
ジェイアール東海[[物流]]（株）（旧・中部国鉄用品運輸（株））
（株）ジェイアール西日本マルニックス（旧･大阪鉄道荷物（株））
（株）東日本物流サービス（旧･湘南鉄道荷物（株）→湘南物流サービス（株）と東京鉄道用品輸送（株）が合併）
東北鉄道運輸（株）
新潟鉄道荷物（株）
広島鉄道荷物（株）
四鉄運輸（株）（旧･四国鉄道荷物（株））

JR貨物系の運輸系企業となった例

（株）ジェイアール貨物・北海道物流（旧･北海道鉄道荷物（株）→（株）北海道ジェイアール物流と（株）ジェイアール貨物・北海道ロジスティクスが合併）

運輸業以外の企業となった例

長野鉄道車両整備（株）（→JR長野鉄道サービス（株）に改称）
* 分鉄開発（株）（→2017年解散）

鉄道荷物会社は、国鉄時代からJR時代へと、時代の変化に対応しながら、日本の物流を支え続けてきたのです。

もう一度検索