鉛筆部隊

鉛筆部隊とは

「鉛筆部隊」とは、太平洋戦争中の1944年、学童疎開中に教員であった柳内達雄が、疎開中の学童たちを励ますために名付けた名称です。この名称は、特攻隊員との交流を通じて広く知られるようになりました。

疎開と「鉛筆部隊」の誕生

1944年8月、東京都世田谷区の代沢国民学校の児童たちは、長野県松本市の浅間温泉へと疎開しました。児童たちは複数の旅館に分宿し、柳内が担当した千代の湯旅館では、彼らを「鉛筆部隊」と名付け、「武器を持てない代わりに、鉛筆で日記や手紙を書き、家族を励ますことが君たちの任務だ」と訓示しました。

特攻隊員との交流

1945年2月下旬、千代の湯旅館に6人の特攻隊員が滞在することになります。彼らは陸軍の今野勝郎軍曹、出戸栄吉軍曹、時枝宏軍曹、嶋田貫三軍曹、今西修軍曹、大平定雄伍長でした。彼らは誠第32飛行隊（武剋隊）の隊員で、約1ヶ月間、学童たちと生活を共にし、遊びや演芸会を通じて親睦を深めました。

1945年3月下旬、今野、出戸、嶋田、今西、大平の5人がまず松本飛行場から出撃し、沖縄方面で戦死しました。その後、時枝も4月3日に新田原飛行場から出撃し、沖縄で戦死しました。5月になり、特攻隊員が学童たちに宛てた手紙が届きます。その中の一通、今野軍曹の手紙には「鉛筆部隊の諸君」とあり、「皆さんがこの便りをみているころは、兵隊さんはこの世の人ではありません。つぎの世を背負うみなさん方がいるので、喜んで死んでいけます」と綴られていました。

この手紙の一通には、時枝軍曹が武揚隊の五来軍曹に託した伝言も記されていました。これらの出来事は、当時の『週刊少国民』にも掲載され、また、この手紙から武剋隊と兄弟隊の武揚隊が浅間温泉の富貴の湯旅館に滞在していたことが判明しました。ここには世田谷の東大原国民学校の学童たちが疎開しており、彼らの証言から、学徒兵の遺書を集めた遺稿集『きけわだつみのこえ|きけ_わだつみのこえ』に手記が掲載された長谷川信少尉も、彼らと親しく交わっていたことが分かりました。

事績の紹介と広がり

「鉛筆部隊」の物語は、きむらけん氏の著書『鉛筆部隊と特攻隊－もう一つの戦史－』によって広く知られるようになりました。きむら氏は、書籍化以前に自身のブログでこの出来事を紹介し、それによって多くの情報が集まったと述べています。この物語は、ラジオ番組やテレビ番組でも紹介され、童話化や舞台化もされました。

2013年3月27日にはラジオ深夜便で、2015年8月13日にはフジテレビの『奇跡体験!アンビリバボー』で紹介され、2017年には童話『僕のお嫁さんになってね』として出版されました。また、2018年には舞台「Opera鉛筆部隊と特攻隊」が上演され、2019年には知覧特攻平和会館で企画展が開かれ、テレビ信州ではドキュメンタリー番組が放映されました。

新たな資料の発見

「鉛筆部隊」の物語が広まるにつれて、新たな資料も発見されています。

YT資料：山梨県在住の男性が古手紙の束を購入したところ、その多くに「鉛筆部隊」の判が押されており、松本市立博物館に寄贈されました。
HT資料：長野県在住の男性から、武剋隊の兄弟隊である武揚隊の隊員が書き残した遺墨と遺影が発見されました。
KH資料：神奈川県在住の女性から、疎開中に特攻隊員から受け取った遺墨や手紙が提供され、佐藤正軍曹のものであることが判明しました。
TH手記：徳島県在住の男性から、誠第31飛行隊の特攻までの経緯を記した手記が提供されました。

これらの資料によって、陸軍松本飛行場に多くの特攻機が飛来していたことや、誠第31飛行隊（武揚隊）と誠第32飛行隊（武剋隊）の詳しい動静が明らかになりました。

まとめ

「鉛筆部隊」の物語は、戦時下の子どもたちの純粋な想いと、特攻隊員との間で育まれた深い絆を伝えています。彼らの遺した手紙や遺墨は、戦争の悲劇を後世に語り継ぐ貴重な資料となっています。