鉾田陸軍飛行学校

鉾田陸軍飛行学校は、日本陸軍が運用した軍学校の一つで、主に軽爆撃機や襲撃機を用いた攻撃に関する教育と研究を担っていました。1940年（昭和15年）に静岡県の浜松陸軍飛行学校内に設置された後、翌年には茨城県へと移転しました。太平洋戦争末期には、教導飛行師団への改編を経て、特攻隊の編成にも深く関わることとなります。

沿革

設立の背景

陸軍における航空爆撃の研究は、当初、埼玉県所沢町の陸軍航空学校で始まりました。1925年（大正14年）には、初の爆撃専門部隊として飛行第7連隊が設立され、その内部に練習部が設けられました。その後、1933年（昭和8年）に浜松陸軍飛行学校が開校すると、同校が爆撃に関する教育と研究を引き継ぎました。しかし、重爆撃機と軽爆撃機の差異が明確になるにつれて、それぞれの専門的な教育機関が必要とされるようになりました。

鉾田陸軍飛行学校の設立

1940年（昭和15年）7月、鉾田陸軍飛行学校令が制定され、同年12月に施行されたことで、鉾田陸軍飛行学校が正式に設立されました。学校令では、「学生に軽爆撃飛行隊に必要な学術を修得させるとともに、軽爆撃飛行隊に必要な兵器の調査、研究及び試験を行う」ことが定められました。これにより、陸軍の航空爆撃教育は、重爆撃機を浜松陸軍飛行学校が、軽爆撃機を鉾田陸軍飛行学校が担当することとなりました。

学校の編制は、陸軍航空総監隷下の校長を筆頭に、幹事、本部、教育部、研究部、材料廠、そして学生で構成されました。当初は浜松陸軍飛行学校内に設置されましたが、1941年（昭和16年）1月には茨城県鹿島郡新宮村（現在の鉾田市中部）に移転しました。

教育内容

鉾田陸軍飛行学校では、以下の学生を対象とした教育が行われていました。

甲種学生: 戦術および爆撃に関する高度な学術を修得する、航空兵科の大尉が対象でした。修学期間は約6ヶ月で、必要に応じて他兵科の将校も受け入れられました。
乙種学生: 軽爆撃飛行隊の操縦に必要な学術を修得する、新たに操縦を修得した航空兵科の尉官が対象でした。修学期間は約4ヶ月で、こちらも必要に応じて他兵科の将校が受け入れられました。
その他: 臨時に各兵科の将校以下を召集し、必要な教育を行うこともありました。

1941年（昭和16年）には、学生の所属条件が「航空兵科」から「航空関係ノ兵科」に修正され、乙種学生の対象が尉官と見習士官に拡大されました。また、修学期間が約6ヶ月に延長され、学生は校内居住となりました。

太平洋戦争と鉾田陸軍飛行学校

太平洋戦争が開戦すると、陸軍航空爆撃における洋上艦船攻撃の重要性が高まりました。鉾田陸軍飛行学校は、1943年（昭和18年）に米軍が「跳飛爆撃」で戦果を上げたことを受けて、新たな艦船攻撃法として跳飛爆撃の研究を始めました。

鉾田教導飛行師団

1944年（昭和19年）3月、連合軍の本土襲来に備えて、練度の高い教官や助教を戦力化する「東二号作戦」が発動されました。鉾田陸軍飛行学校もその一環として、戦闘機を用いて防空任務にあたりました。同年6月には、飛行学校の軍隊化により、鉾田陸軍飛行学校は鉾田教導飛行師団に改編されました。

編制と教育

鉾田教導飛行師団は、師団司令部、2個教導飛行隊、1個教導整備隊、通信隊、教育隊、そして学生で構成され、鉾田と原ノ町の各飛行場に分散展開しました。教育対象は、甲種学生（大尉）、乙種学生（尉官）、射撃学生、そして准士官や下士官からなる己種学生でした。

特攻隊との関わり

1944年7月、米軍がサイパン島を占領すると、日本本土への爆撃が現実味を帯びました。鉾田教導飛行師団は、司令部偵察機1個中隊を編成し、マリアナ諸島方面の米軍飛行場攻撃作戦に参加しました。

また、同年10月には、陸軍で最初に編成された特攻隊である「萬朶隊」が、鉾田教導飛行師団で編成されました。その後も、フィリピンの戦いで特攻作戦が本格化すると、鉾田教導飛行師団の人員によって複数の特攻隊が編成されました。

解体

1945年（昭和20年）7月、各教導飛行師団は教育部隊と作戦部隊に分離改編されました。鉾田教導飛行師団の主力は教育専任として教導飛行師団の第3教導飛行隊に改編され、作戦専任としては第26飛行団司令部が編成されました。同年8月、終戦とともに、第3教導飛行隊と第26飛行団司令部は解体されました。

年譜

1940年12月：静岡県の浜松陸軍飛行学校内に鉾田陸軍飛行学校を開設。
1941年01月：鉾田陸軍飛行学校を茨城県鹿島郡に移転。
1944年06月：鉾田陸軍飛行学校を鉾田教導飛行師団に改編。
1945年07月：鉾田教導飛行師団を教導飛行師団第3教導飛行隊に改編。
1945年08月：終戦、復員。

歴代校長・師団長

鉾田陸軍飛行学校長

柴田信一少将：1940年12月2日 - 1942年12月1日
藤塚止戈夫少将：1942年12月1日 - 1943年10月18日
今西六郎少将：1943年10月18日 - 1944年6月20日

鉾田教導飛行師団長

今西六郎少将：1944年6月20日 - 1945年5月3日
高品朋少将：1945年5月3日 - 1945年7月18日

教導飛行師団長

橋本秀信中将：1945年7月16日 -

第3教導飛行隊長

高橋賢一少佐：1945年7月18日 -

参考文献

秦郁彦編『日本陸海軍総合事典』初版、東京大学出版会、1991年。
外山操・森松俊夫編著『帝国陸軍編制総覧第一巻』芙蓉書房出版、1993年。
外山操・森松俊夫編著『帝国陸軍編制総覧第三巻』芙蓉書房出版、1993年。
防衛庁防衛研修所戦史室『本土防空作戦』朝雲新聞社〈戦史叢書〉、1968年。
防衛庁防衛研修所戦史室『陸軍航空の軍備と運用（2）昭和十七年前期まで』朝雲新聞社〈戦史叢書〉、1974年。
防衛庁防衛研修所戦史室『陸軍航空の軍備と運用（3）大東亜戦争終戦まで』朝雲新聞社〈戦史叢書〉、1976年。
防衛庁防衛研修所戦史室『陸軍航空兵器の開発・生産・補給』朝雲新聞社〈戦史叢書〉、1975年。
防衛庁防衛研修所戦史室『陸軍軍戦備』朝雲新聞社〈戦史叢書〉、1979年。
田中耕二・河内山譲・生田惇編『日本陸軍航空秘話』原書房、1981年。
秋山紋次郎・三田村啓『陸軍航空史』原書房、1981年。
航空碑奉賛会編『続陸軍航空の鎮魂』1982年。
秦郁彦「飛行第三戦隊は離陸せしや」『太平洋戦争航空史話 (上)』中央公論社〈中公文庫〉、1995年。
陸軍航空士官学校史刊行会編『陸軍航空士官学校』1996年。
小沢敬司『所沢陸軍飛行場史』私家版、1978年。（所沢市立図書館蔵書）
大久保弘一『陸軍読本』日本評論社、1938年。（国立国会図書館デジタル化資料）
仁村俊『航空五十年史』鱒書房、1943年。（国立国会図書館デジタル化資料）

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