贋作

贋作：芸術における模倣と欺瞞

はじめに

絵画、彫刻、書、工芸品など、芸術作品に「贋作」が存在することは古くから知られています。オリジナル作品を模倣し、作者を偽って流通させる行為、あるいはその作品自体を指す言葉です。音楽分野では「偽作」と呼ばれることもあります。本物に対しては「真作」と呼ばれます。贋作を作成する者を「贋作師」と呼びます。

贋作の歴史と目的

贋作の歴史は古く、古代エジプトのパピルスにガラスからの宝石製造法が記されていた例や、古代ローマの詩人ホラティウスによる言及も存在します。15世紀から16世紀にかけては、アルブレヒト・デューラーのサインを模倣する贋作が大量に出回り、当局による規制が行われました。

贋作の目的は多様で、金銭的な利益、特定の信念の宣伝、権威や名誉の向上、技術の研鑽、あるいは単なる悪ふざけなどが挙げられます。中には、特定の作家の名声を貶めることを目的としたケースもあります。

著作権が消滅した作品を模倣することは違法ではありません。歴史的な絵画の複製画は広く販売され、中国では複製画制作が産業として成立しています。しかし、模造品を真作と偽る行為は違法です。

美術学生が練習のために名作を模倣することは一般的で、偽る意図のない模写や複製は問題視されません。

贋作の判明と法的処罰

贋作が判明した場合、販売者は回収・返金を求められたり、著作権法違反などの刑事罰の対象になる可能性があります。贋作師は裁判で「単なる模写」と主張することが多く、単純な模写と高度な技術を用いた贋作との区別が争点となることもあります。

高度な技術を持つ贋作師は、オリジナル作品を制作することも可能です。有名な贋作師の中には、自身のオリジナル作品を発表した者もいます。しかし、模倣に没頭し自身の作風を失ったり、創作意欲を失ったりする者もいます。興味深いことに、贋作師自身が贋作の対象となるケースもあります。日本の刀工、三品広房はその例です。

贋作鑑定

贋作の鑑定は、関連文書、作者の他の作品との比較、拡大鏡を使った視覚鑑定（筆致など）、様式鑑定、用途鑑定、技術鑑定、そして科学鑑定など、多様な方法を用います。

科学鑑定には放射性炭素年代測定法、熱ルミネセンス年代測定法、紫外線・X線撮影などが含まれます。しかし、科学鑑定は高額な費用と時間を要するため、必ずしも好まれているわけではありません。

近年では、ICタグやブロックチェーン技術を用いて、将来的な贋作との区別を試みる動きもあります。

著名な贋作家

歴史上には、多くの才能ある贋作師が存在しました。レオナルド・ダ・ヴィンチの弟子であるジャン・ジャコモ・カプロッティ、エルミア・デ・ホーリー、ハン・ファン・メーヘレン、エミール・シェフネッケル、ジョン・マイアット、張大千、三品広房、エリック・ヘボン、ウォルフガング・ベルトラッキ、ジュリアーノ・ルフィニ、ジョバンニ・バスティアニーニ、アルチェオ・ドッセナ、トム・キーティング、マーク・ランディス、トマス・ジェームズ・ワイズ、ロバート・スプリング、ジョゼフ・コージー、ヘンリー・ウッドハウス、チャールズ・ワイズバーグ、マーク・ホフマンなどがその例です。

音楽における偽作

音楽分野でも、無名の作曲家が有名作曲家の名で作品を発表する行為は古くから行われています。バッハの作品に偽作が混じっていた例や、フリッツ・クライスラーの自作を無名作曲家の作品として発表した例などが有名です。日本では、佐村河内守のゴーストライター問題が記憶に新しいです。

結論

贋作は、芸術の歴史と密接に関わってきた問題です。高度な技術と欺瞞が絡み合う贋作の世界は、芸術作品の本質や価値、そして創作活動そのものについて深く考える契機を与えてくれます。 贋作の発見、鑑定、そしてそれらを取り巻く法的な問題などは、現代においても重要な課題であり続けています。

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