鍋田三善

鍋田三善：磐城の歴史を探求した博捜家中老

鍋田三善（なべた さんぜん／みつよし）は、安永7年（1778年）に生まれ、安政4年3月11日（1858年4月24日）に81歳で生涯を閉じた、江戸時代後期の磐城平藩の重臣（中老）です。舎人、子行といった通称や字を持ち、晶山、淡齋といった号を用いていました。書斎を静幽堂と称し、特に文献史料を広く渉猟・研究する「博捜家」として知られています。

鍋田家は、慶長12年（1607年）に初代の正光が安藤重信に仕えて以来、代々安藤家の家臣を務めてきました。三善の父である三房（みつふさ）の時代、安藤信明（のちに信成）が宝暦6年（1756年）に美濃国加納から磐城平へ転封されたのに伴い、一家もこの地に移り住みました。父・三房は藩主からの信頼が厚く、用人や小姓頭、書翰方といった要職を歴任し、寛政11年（1799年）に中老、さらに享和3年（1803年）には61歳で家老にまで昇進しましたが、その翌年、病を得て職を辞し隠居しました。

父・三房が学問を好んだ影響もあり、三善もまた幼い頃から学問に親しみました。9歳になった天明6年（1786年）の春、江戸詰めとなった父と共に、江戸・大塚の安藤家下屋敷に移り、江戸で過ごす中で兵学者である清水赤城に師事しました。江戸での生活は、三善に多様な分野の知識をもたらすとともに、多くの著名人との交流の機会を与えました。田原藩の家老でありながら画家や蘭学者としても知られた渡辺崋山、幕府の教学機関である昌平錻の教授を務めた佐藤一斎、国学者の屋代弘賢、人気作家の曲亭馬琴、水戸藩の藤田東湖など、当時の第一級の文人や学者たちとの交わりは、三善が後に熱心に取り組む文献史料の探索や研究において、計り知れない支えとなりました。

文化元年（1804年）、27歳で父から家督を継いだ三善は、翌年には用人、文化5年（1808年）には中老へと順調に昇進します。文化11年（1814年）には、藩命による地図作成のためとも言われ、江戸から磐城平へ戻り、田町会所の東隣にある屋敷に居を構えました。磐城での役職は「御中老御城預り」との記録が残されています。この文化11年から文政12年（1829年）10月に再び江戸へ戻るまでの約15年間は、三善が磐城の地で史料探究に没頭した重要な期間でした。藩務の傍ら、三善は地域の寺社や旧家に伝えられてきた古文書を丹念に探し出し、それらを自ら筆写して、自身の著述や研究の貴重な資料としました。この精力的な活動こそが、彼が博捜家と呼ばれる所以です。

文政12年（1829年）10月、藩主の交代に伴い再び江戸詰めとなった後も、三善の史料研究への情熱は衰えませんでした。天保4年（1833年）には、水戸藩から藩を通して、徳川家三代の事績をまとめる歴史書『垂統大記』の編纂作業への協力依頼を受けます。これは、三善の長年にわたる史料収集・研究活動と、彼が築き上げた幅広い人脈が高く評価された結果でした。水戸藩側の窓口として、三善と書簡を交わしたのは、彰考館総裁として『大日本史』編纂にも携わった小宮山楓軒でした。三善は晩年まで、自身の主要な著書となる『磐城志』や『赤穂義人纂書』のための史料探索に執念を燃やし続けました。

安政4年（1857年）5月5日、三善は孫の弁之助（後の三復）に家督を譲り隠居しました。そして、翌安政4年（1858年）3月11日、江戸の安藤家下屋敷にて、81年の生涯を終えました。

博捜家として膨大な史料を収集・研究した三善は、後世に多くの著書を残しました。主なものに、郷土史研究の礎となった『磐城志』や『磐城文書』、赤穂義士に関する研究をまとめた『赤穂義人纂書』、地誌である『陸奥国磐城名勝略記』、詳細な地図である『改正陸奥磐城四郡疆界路程全図』などがあり、その功績は現在も高く評価されています。

もう一度検索