長い首の聖母

パルミジャニーノ作『長い首の聖母』：マニエリスムの傑作

『長い首の聖母』（Madonna dal collo lungo）は、16世紀イタリアを代表するマニエリスム期の画家、パルミジャニーノが1535年から1540年頃にかけて制作した油彩画です。現在、イタリアのフィレンツェにあるウフィツィ美術館に所蔵されています。

この絵画は、豪華な衣装を身にまとった聖母マリアが、大きな赤ん坊のキリストを膝に抱いている様子を描いています。聖母マリアの周囲には、幼子キリストを崇拝する複数の天使たちが配置され、独特の構図が目を引きます。

特に特徴的なのは、聖母マリアの異様に長い首です。この非現実的なプロポーションと、画面全体に漂う歪みと緊張感こそが、この作品をマニエリスムの代表作たらしめていると言えるでしょう。

マニエリスム様式の表現

パルミジャニーノは、この作品において、自然を大胆に歪め、現実離れした人体描写を追求しています。これはマニエリスムの特徴である「フィグーラ・セルペンティーナ（蛇のようにくねった人体像）」の典型的な例と言えるでしょう。

キリストは赤ん坊にしては異常に大きく、聖母マリアの膝の上で不安定に横たわっています。聖母マリア自身も、現実の人間のプロポーションからは程遠く、右側の天使のほぼ2倍の大きさで描かれています。また、聖母マリアの右足は、画面からわずかに飛び出しているかのように描かれており、絵画の枠組みを超えた視点が感じられます。

聖母マリアの細く長い指は、イタリアの医学者ヴィート・フランコによってマルファン症候群の症状を示唆する特徴として指摘されています。マルファン症候群は、結合組織に影響を与える遺伝性疾患であり、この説は聖母マリアのモデルとなった人物にこの疾患があった可能性を示唆しています。

謎めいた情景と修復

絵画の右下隅には、聖ヒエロニムスの姿が描かれています。この聖人の描写は、依頼者の意向によるものと考えられていますが、その具体的な理由についてはまだ議論の余地があります。

近年行われた修復作業により、聖母マリアの右肘の下にいる天使の姿がより鮮明になり、画面全体の解釈に新たな視点が加わりました。修復以前は、下段中央の天使はキリストを見下ろしていたと推測されますが、修復によって、その天使は、別の天使が捧げ持っている花瓶に注目している様子が明らかになりました。この花瓶には、うっすらと十字架が描かれていると見られています。

歴史と所蔵

この絵画は、パルマの有力一族エレアナ・タリアファーリが、夫の埋葬礼拝堂のために注文したものです。しかし、1540年のパルミジャニーノの死により未完のまま残されました。その後、トスカーナ大公フェルディナンド・デ・メディチが1698年に購入し、1948年以降はウフィツィ美術館に所蔵されています。

『長い首の聖母』は、マニエリスム絵画を理解する上で極めて重要な作品であり、その独特な美学と謎めいた要素は、現代においても見る者を魅了し続けています。

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