長刀鉾

長刀鉾（なぎなたほこ／なぎなたぼこ）

祇園祭の山鉾巡行において、前祭の先頭を務める長刀鉾は、京都市下京区四条烏丸東入ルの長刀鉾町に位置します。巡行順を決める「くじ取り式」には参加せず、常に一番手を務めることから「くじ取らず」と呼ばれます。また、現存する山鉾の中で唯一、実際の子供である「生稚児（いきちご）」が搭乗して巡行する伝統を持つ点でも特異な存在です。

概要

長刀鉾は、その名の通り、鉾の最上部に巨大な長刀が飾られています。この長刀は、古来より疫病や災厄を祓う役割を担うと信じられてきました。多くの山鉾が稚児人形を用いる現在も、長刀鉾のみが生きた子供である生稚児を乗せる唯一の鉾です。また、この鉾は2022年現在も女人禁制の伝統を残しています。

歴史

長刀鉾は、応仁の乱（1467年）以前から存在が確認されており、山鉾の中でも最も古い歴史を持つとされます。創建時期については嘉吉元年（1441年）説やそれ以前説があります。八坂神社に地理的に近かったことなどから、くじ取り式が始まった明応9年（1500年）以降、現在まで一貫して巡行一番を担ってきました。この歴史的な経緯が、「くじ取らず」としての地位を確立しています。

鉾頭の長刀

鉾頭の長刀は、謡曲「小鍛冶」や天下五剣の「三日月宗近」で知られる平安時代の名工、三条小鍛冶宗近の作によるとされる伝説に由来し、鉾名の起源となったと言われています。伝説によれば、宗近が娘の病気平癒を祈願し、祇園社に奉納した長刀（または太刀）が始まりとされます。破風の蟇股には、小鍛冶宗近が神剣を鍛える姿の彫刻（片岡友輔作）が見られます。

当初の長刀は、大永2年（1522年）に三条長吉作に、延宝3年（1675年）には和泉守来金道作に替えられました。しかし、刀剣としての重量や危険性を考慮し、天保8年（1837年）以降は、竹に錫箔を押した模造品が使用されています。長吉作の長刀は現在も秘蔵され、非公開です。

長刀は、その刃先が八坂神社や御所のある北側を向かないよう、南向きに付けられています。これは神聖な場所への敬意を示すためと解釈されています。

天王座の天王像

長刀鉾の天王座には、鎌倉時代初期の武士、和泉小次郎親衡の人形が祀られています。和泉親衡は、源頼家の遺児を奉じて北条氏に反旗を翻した人物（泉親衡の乱）ですが、朝比奈義秀と並ぶ強力な武士であったという伝説も伴います。長刀鉾に伝わる伝承によれば、親衡は宗近が祇園社に奉納した長刀（太刀）を借りて愛用しましたが、不思議な出来事が続いたため、神仏を私物化すべきでないと悟り、社へ返納したと伝えられています。

生稚児

かつて船鉾を除く全ての祇園祭の鉾では、実際の子供である稚児が乗るのが通例でした。しかし、時代の移り変わりとともにこの習わしは少なくなり、現在では人形が代用されるのが一般的です。その中で、長刀鉾は古来の伝統を守り、今日でも唯一、本物の生稚児を搭乗させて巡行を行います。生稚児は長刀鉾の象徴であり、巡行における重要な存在です。

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