天下五剣

天下五剣

天下五剣とは、日本刀の中でも特に名高い五振の刀剣を指す総称です。具体的には、童子切安綱、鬼丸国綱、三日月宗近、大典太光世、数珠丸恒次の五振を指します。これらの刀剣は、その卓越した出来栄えと、歴史的な背景から、特別な存在として扱われてきました。

歴史的背景

これらの五振を一括りにして「天下五剣」と呼ぶようになったのは、少なくとも江戸時代には遡ることができ、刀剣書『享保名物帳』の写本である『諸家名剣集』には、それぞれの刀剣に対して「天下出群之名剣五振之内也」という記述が見られます。しかし、「天下五剣」という名前がいつ頃から使われ始めたのかについては、2013年の時点では明確になっていません。

選定基準

天下五剣の選定基準については、いくつかの説があります。一つは、刀剣自体の出来が非常に優れているという説で、『諸家名剣集』や『名劔伝』などの刀剣書や、日本刀研究家の福永酔剣氏もこの説を支持しています。もう一つは、刀剣の出来に加え、その歴史や伝来も考慮して選ばれたという説です。日本刀研究家の佐藤寒山氏は、後者の説を支持しています。

各刀剣の評価

五振の刀剣の中で、どれを筆頭とするかについても様々な意見があります。『諸家名剣集』では鬼丸国綱を「五振之内随一」と評しており、佐藤寒山氏は童子切安綱を「日本刀中の“横綱”」と評しています。これらの評価からも、各刀剣が非常に高い評価を受けていることが伺えます。

天下五剣の成立時期

天下五剣という概念が成立した時期については、室町時代から安土桃山時代頃とする説が広く受け入れられています。しかし、東京国立博物館研究員の立道惠子氏は、具体的な資料に基づいて「天下五剣」という呼称がいつ頃から使われ始めたのか、その典拠は明確ではないと指摘しています。

古典資料

近世以前の資料としては、『諸家名剣集』の他に、江戸後期の刀剣書『名劔伝』があります。『名劔伝』では、三日月宗近、鬼丸国綱、数珠丸恒次、大典太光世、童子切安綱をリストアップし、それぞれに「五振ノ内」「天下出群ノ名ケン五振ノ内ノモノ　諸家名剣集ニ同じ」という注釈を付けています。

研究家の見解

日本刀研究家の福永酔剣氏は、天下五剣を「天下出群の名刀五振り」と説明しています。一方で、佐藤寒山氏は、これらの刀剣は名刀であると同時に、その由緒伝来も考慮して選ばれた可能性を示唆しています。また、廣井雄一氏は、天下五剣が名品であることは疑いないものの、備前刀が1口も含まれていないことなど、選定基準に疑問を呈しています。

各刀剣の記述

『諸家名剣集』では、各刀剣の項目に以下のような記述があります。

三日月宗近：右五振之内也
鬼丸国綱：右五振之内随一と申也
童子切安綱：誠ニ天下出群之名刀ニテ右五振之内也
珠数丸恒次：是又天下出群之名釖にて右五振の内也
* 大典太光世：是又天下出群之名剣五振之内也

佐藤寒山の異説

佐藤寒山は、著作の中で一度、鬼丸国綱を除いた五振（童子切安綱、大典太光世、三日月宗近、数珠丸恒次、一期一振吉光）を天下五剣として記述していますが、別の箇所では鬼丸国綱を含めた五振を天下五剣と記述しており、同一書籍内で矛盾する記述が見られます。

まとめ

天下五剣は、その卓越した出来栄えと歴史的背景から、日本刀の中でも特に名高い五振の刀剣です。選定基準や成立時期については様々な説があり、いまだ解明されていない部分もありますが、その名声は現代にも受け継がれています。

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