三日月宗近

三日月宗近（みかづきむねちか）

三日月宗近は、平安時代に作られたとされる日本刀（太刀）であり、天下五剣の中でも特に美しいと評される名刀です。その名の由来は、刀身に見られる三日月形の打除け（刃文の一種）にあります。現在は東京国立博物館に所蔵されており、日本の国宝に指定されています。

概要

刀工と名前の由来

三日月宗近は、平安時代の刀工である三条宗近によって作られました。直刀から反りのある日本刀へ変化する過渡期の作品であり、制作年代は10世紀後半から12世紀頃と考えられています。室町時代には既に名刀として知られており、「三条宗近作の三日月という太刀」として人々に認識されていました。「天下五剣」の中でも最も美しいと評され、「名物中の名物」とも呼ばれています。

恵勝寺合戦と三日月宗近

1527年の恵勝寺合戦では、権大納言日野内光が三日月宗近（当時は“五阿弥切り”と呼ばれていた）で奮戦したという説があります。しかし、この説には疑問が残ります。日野内光の菩提を弔うため、畠山卜山が三日月宗近を高野山に納めたという記録がありますが、畠山卜山は日野内光が戦死する前に病死しているため、この説は矛盾しています。

永禄の変と三日月宗近

永禄の変では、足利義輝が三好三人衆の軍勢に対し、将軍家に代々伝わる刀を畳に突き刺して奮戦したという話が広まっています。しかし、義輝の武勇伝を記した史料には、彼が使用した刀が名刀であるとは記されておらず、三日月宗近の名前も登場しません。また、当時の記録にも「幾多の刀を取り替えて戦った」という記述はないため、この説も疑問視されています。

山中鹿介と三日月宗近

山中鹿介が一時的に三日月宗近を佩用していたという伝承もあります。また、高台院の従者である山中鹿之助という人物が佩用していたという伝承も存在します。現存する鞘には桐と菊の金蒔絵が施されており、金具には三日月・雲・桐などの色絵が施されています。刀剣研究家の福永酔剣は、鹿介が三日月を信仰していたことから、彼がこの拵えを作らせた可能性があると指摘しています。

江戸時代

三日月宗近の確実な伝来は、豊臣秀吉の正室である高台院が所持していた時代から始まります。高台院の死後、1624年に徳川秀忠に贈られ、以降は徳川将軍家の所蔵となりました。江戸時代初期の三日月宗近の押形が残っていますが、現在のものとは樋や銘の位置が異なっています。

近現代

明治維新後も徳川将軍家に伝来しましたが、その後、中島飛行機（現在のSUBARU）の社長や渡邊三郎の手に渡りました。徳川将軍家からの流出経路については諸説あり、金融業者を経由した説、渡邊が中島から譲り受けた説、骨董屋で偶然発見した説などがあります。1951年には渡邊の息子名義で国宝に指定され、1992年に東京国立博物館に寄贈されました。

作風

刀身

刃長約80.0センチメートル、反り約2.7センチメートル。細身で反りが高く、踏ん張りの強い優美な太刀です。地鉄は小板目肌がよく約み、地沸が厚くつき、地景が入ります。刃文は小乱れ主体で、三日月形の打のけが特徴的です。茎は生ぶで、雉子股形をしています。通常の太刀とは異なり、銘は佩裏に切られています。

外装

現存する鞘は、安土桃山時代に作られた金平目地桐紋蒔絵糸巻太刀拵のものであり、それ以前の拵えについては不明です。松平定信の著書には、黒漆塗りの鞘と黄色い糸巻の拵えが記載されていますが、これが三日月宗近の拵えであるという確証はありません。

刀剣用語の説明

地沸（じにえ）: 刃文を構成する鋼の粒子が肉眼で確認できる程度に荒いもの。
地景（ちけい）: 地の部分で沸が連なって線状に見えるもの。
足（あし）: 地と刃の境から刃縁に向かって伸びる短い線状のもの。
匂口（においくち）: 地と刃の境目。
帽子（ぼうし）: 切先部分の刃文。

まとめ

三日月宗近は、その美しさと歴史的価値から、日本の刀剣文化を代表する存在です。多くの伝説と謎に包まれたこの名刀は、これからも多くの人々を魅了し続けるでしょう。

参考資料

福永酔剣『日本刀大百科事典』 5巻、雄山閣出版、1993年11月20日。
京都国立博物館著、読売新聞社編『特別展京のかたな : 匠のわざと雅のこころ』（再）、2018年9月29日。
末兼俊彦『国宝太刀銘三条（名物三日月宗近）』2018年9月29日。
文化庁編『国宝・重要文化財大全』別、毎日新聞社、2000年。
米岡秀樹編「長光」『週刊日本刀』第2号、デアゴスティーニ・ジャパン、2019年6月25日。
別冊宝島編集部『日本刀の美しさがわかる本』宝島社、2017年12月9日。
矢島忠正『特殊鋼の父渡邊三郎：その生涯と日本特殊鋼』里文出版、2005年、第十章。
* “太刀銘三条（名物三日月宗近）”. ColBase. 国立文化財機構.

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