長尾景行

長尾景行という名は、日本の歴史上の複数の時代にわたる人物に冠された可能性があり、その実像や系譜には複雑な様相が見られる。

長尾氏の祖とされる人物の一人として、平安時代の長尾景行の名が挙げられることがある。伝承によれば、彼は鎌倉権五郎景正の孫にあたるともいわれるが、名については景弘とする見解もあり、その確実性は高くない。また、この景行（あるいは景弘）を景正の直系ではないとする系譜も存在する。鎌倉時代末期に編纂された『桓武平氏諸流系図』（『三浦和田文書』所収）では、長尾氏は景正の叔父である四郎大夫景村の後裔であると記されており、この系図においては、景行は長江義景の子息で、桑良五郎と名乗った人物として示されている。これらの伝承や系図は、長尾氏の初期の系譜がいかに複雑で不確定であるかを示唆している。

南北朝時代にも長尾景行という名の武将が記録に見られる。彼は長尾景忠の嫡男であり、鎌倉長尾氏の祖として知られる長尾景直の兄にあたるとされる系図がある。また、総社長尾家の祖となる長尾忠房や、白井長尾家の祖となる長尾清景は、この景行の子息であると伝えられている。しかしながら、この南北朝時代の景行の実在自体を疑問視する歴史家もおり、異なる系図においては、忠房・清景兄弟を長尾景忠の直接の子息で、景直の弟として扱うものも存在する。こうした系図では、長尾景直が景忠の嫡男であったと解釈されることになる。この時代の景行についても、その存在や系譜に関しては複数の異説が併存している状況である。

さらに室町時代には、上野国守護代として長尾景行という人物の活動が伝えられている。この景行は、永享年間（1429年-1441年）に現在の群馬県にあたる上野国に蒼海城を築城したという記録が残っている。同名の他の時代の人物と比べると、その活動時期が大きく隔たっていることから、この室町時代の景行は、先に述べた平安時代や南北朝時代の景行とは別人であると考えるのが妥当とされる。彼は上野国の実力者として活動したことがうかがえる。

以上のように、「長尾景行」という名前は、異なる時代に複数の人物によって名乗られた可能性があり、それぞれの実像や系譜については、歴史史料や系図によって異説や不明瞭な点が多く、断定が難しい人物群であるといえる。特に長尾氏の初期の系譜に関する伝承は錯綜しており、どの景行が実際にどの系統に位置づけられるかは、今後の研究課題となる部分も多い。

もう一度検索