長尾景直

長尾景直（ながお かげなお）は、戦国時代から安土桃山時代にかけて越中を舞台に活躍した武将です。上杉謙信の有力な家臣団である譜代衆の一員として、軍役81人を負担する重要な立場にありました。別名として椎名小四郎とも称されており、これは後に椎名氏の名跡を継いだことに由来します。

その出自は必ずしも明確ではありません。飯野城主とされる長尾景久の子とする説や、直峰城主・長尾景明の子とする説がありますが、いずれも確証はありません。しかし、長尾氏の一族であったことは確かであり、後に長尾藤景の養子となったと伝えられています。さらに、彼は越中の有力国人である椎名氏の当主、椎名康胤の跡を継ぐことになります。この家督相続に伴い、椎名小四郎を名乗るようになったと考えられています。越中における椎名氏の拠点を引き継ぎ、上杉氏の越中支配における重要な役割を担いました。

景直は主に越中方面での戦役に参加しました。謙信の越中平定戦において、椎名氏ゆかりの地で上杉方の武将として奮戦した記録が見られます。しかし、天正6年（1578年）に越中で起こった月岡野の戦いでは、織田方の猛攻の前に上杉軍は敗北を喫し、景直もこの苦い経験をしました。

この天正6年は、景直の生涯にとって大きな転換期となります。上杉謙信が急逝し、その跡目を巡って御館の乱が発生すると、景直は景勝ではなく上杉景虎を支持しました。乱は景勝の勝利に終わったため、景虎方についた景直は所領を削減されるという厳しい処分を受けます。窮地に立たされた景直は、なんと敵対していた織田方へと寝返るという選択をします。

織田方に転じた景直は、かつての上杉領であった越中において、織田方の武将として活動を開始しました。天正6年（1578年）12月には、織田信長から越中国新川郡太田保の知行宛行を約束されている「椎名駿河守」という人物が記録に見えますが、これが景直本人であったか、あるいは全くの別人であったかは定かではありません。天正9年（1581年）9月には、織田方として活動していた景直が、配下である唐人親広の帰属を巡って同じ織田方の武将である神保長住と争いを起こしたことが記録されています。これは、織田方の越中支配が進む中で生じた、旧勢力間の新たな摩擦を示す出来事と言えるでしょう。

景直の最期についても、『越国諸士記』という史料に記述が見られます。それによれば、彼は天正9年（1581年）に越中国の小出城で死去したとされています。唐人親広を巡る争いと同じ年に死去したことになりますが、その死因や詳しい状況については史料からは読み取れません。

なお、景直が椎名氏の名跡を継いだことから、歴史書によっては「椎名景直」と表記されることもあります。しかし、彼が椎名氏の家督を継いだ後も、諱（実名）が長尾氏に由来する「景直」のままであったのか、あるいは椎名氏の通字である「胤」を含む名前に改めたのかは、現在のところ確認できる史料からは明らかになっていません。その生涯は、出自の不明瞭さ、家督継承の経緯、そして主家を変えざるを得なかった時代の波に翻弄された、複雑なものであったと言えるでしょう。

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