長島三芳

長島 三芳（ながしま みよし）

日本の詩人。1917年（大正6年）9月14日、神奈川県横須賀市に生まれる。2011年（平成23年）9月7日逝去。

生涯と詩業

若き日々から戦前・戦中

長島三芳は、神奈川県の沿海都市である横須賀に生を受けました。その後、横浜専門学校（現在の神奈川大学）で学び、卒業を経て、言葉の世界、特に詩作へと深く関わっていきます。前衛的な詩人として知られる北園克衛が率いる詩誌「VOU」に参加し、詩人としての活動を開始しました。

しかし、彼の青年期は戦雲が立ち込める時代と重なります。1937年（昭和12年）に始まった日中戦争では、兵士として動員され、中国中部を転戦する過酷な経験をしました。この従軍中、深い傷を負い、療養のために日本へ帰国することとなりました。この戦争体験は、彼のその後の人生観や詩作の根幹に、消しがたい影とテーマを刻み込むことになります。

戦後の詩壇活動

第二次世界大戦の終結後、長島三芳は再び詩作の道へと戻ります。戦後詩壇において、彼は未来派的な動きを見せた「日本未来派」の同人として名を連ねました。さらに、自身の詩的な追求を深めるため、「植物派」という詩のグループを立ち上げ、その中心的人物として活動を展開しました。詩誌の発行などを通じて、独自の詩的理念を打ち出しました。

彼の活動拠点は、生まれ育った神奈川県、特に横浜が中心でした。1958年（昭和33年）には、地域の詩人たちが交流し、活動を促進するための組織である「横浜詩人会」の設立に尽力しました。彼はこの会の運営に深く関与し、神奈川における詩の振興に貢献しました。また、日本の主要な詩人団体である現代詩人会の会員としても活動し、全国的な視野で詩壇に関わりました。

詩作だけでなく、神奈川県の文学振興においても重要な役割を果たしました。神奈川近代文学館の評議員として、地域の貴重な文学資料の保全や公開、そして文学活動の支援に尽力しました。

詩作の特徴と受賞

長島三芳の詩は、その従軍経験、すなわち戦争体験を極めて率直に、生々しく描写している点が最大の特徴です。戦場の情景、兵士の心理、負傷の痛みといった、通常の言葉では表現しきれないような体験が、飾らない言葉で詩の中に刻み込まれました。彼の詩は、単なる個人の記録を超え、戦争の悲惨さや不条理を後世に伝える強いメッセージを帯びています。

その詩人としての才能は、比較的早い時期から高く評価されていました。1952年（昭和27年）には、詩集『黒い果実』によって、日本の現代詩における重要な賞の一つである第2回H氏賞を受賞し、戦後詩壇における地位を確立しました。晩年に入ってもその創作意欲は衰えず、2005年（平成17年）には第11回横浜文学賞を受賞するなど、長年にわたり高い評価を受け続けました。

人物交流と遺産

長島三芳は、日本の詩壇において幅広い人脈を持っていました。特に、三好達治や草野心平といった、戦前・戦後を通じて日本の詩壇を牽引した著名な詩人たちとの親交は深く、彼らとの交流は長島自身の詩作にも影響を与え、また当時の文学界を知る上でも貴重な資料が生まれました。

2011年（平成23年）、長島三芳は93年の人生に幕を下ろしました。彼の逝去後、生涯をかけて書き続けた詩の直筆原稿や、詩人仲間との間で交わされた書、掛け軸など、多くの貴重な品々が、ご遺族の意向により神奈川近代文学館へ寄贈されました。これらの遺品は、長島三芳の詩業を深く理解するため、また、当時の詩壇の様子を窺い知る上で、非常に価値のある文学遺産となっています。また、彼の晩年に書かれた遺稿「駆けぬけた夏」は、逝去翌年の「現代詩手帖」2012年1月号に掲載され、最晩年まで詩に対する真摯な情熱を持ち続けていたことが示されました。

主な著作

長島三芳は数多くの詩集を発表し、その作品は時代を超えて読み継がれています。以下に代表的な詩集や著作を挙げます。

詩集『精鋭部隊』（昭森社、1939年）
合同詩集『野戦詩集』（山本和夫編、山雅房、1941年）
詩集『黒い果実』（日本未来派発行所、1951年）
詩集『音楽の時』（日本未来派発行所、1952年）
詩集『終末記』（国文社〈ピポー叢書〉、1955年）
『長島三芳詩集』（宝文館出版〈昭和詩大系〉、1976年）
詩集『走水』（宝文館出版、1991年）
詩集『肖像』（思潮社、2004年）
* 『長島三芳詩集』（土曜美術社出版販売〈新・日本現代詩文庫〉、2013年）

長島三芳の生涯は、時代の激動、特に戦争という避けられない体験と深く結びついていました。しかし、彼はその体験を詩という形式で昇華させ、戦争の真実を伝えようと努めました。神奈川の地を愛し、その文学振興にも貢献した詩人として、彼の功績は長く記憶されるでしょう。

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