長島乙吉

長島乙吉：日本のアマチュア鉱物学の父

長島乙吉(1890-1969)は、日本のアマチュア鉱物研究に多大な貢献をした人物です。専門的な鉱物学の教育を受けたわけではありませんでしたが、並々ならぬ情熱と探究心、そして人との繋がりによって、日本の鉱物学研究、特に希元素鉱物研究において重要な役割を果たしました。その功績から「鉱物趣味の父」「アマチュア鉱物学の父」と称されています。

鉱物への情熱と初期の活動

岐阜県中津川市に生まれた長島は、幼い頃から鉱物に興味を持ちました。小学校卒業後、上京して鉱物・宝石商に勤務。そこで鉱物標本製作の技術を習得し、後に独立して自身の鉱物標本店を開業しました。中国への標本輸出なども行うなど、事業家としての顔も持ち合わせていました。

秩父鉱物陳列所と鉱物同好会

1919年には秩父鉄道の依頼を受け、秩父鉱物陳列所（現・埼玉県立自然の博物館の前身）の創設に携わり、800点以上の鉱物を採集・展示しました。これは、長島が単なる販売者ではなく、研究者としての資質も持ち合わせていたことを示しています。さらに1930年には鉱物同好会を創設し、『趣味の礦物』という同人誌を発刊。アマチュア研究者同士の交流を促進し、鉱物研究の裾野を広げる役割も果たしました。

理化学研究所での研究活動

長島は、秩父での鉱物採集をきっかけに東京帝国大学理学部化学教室の木村健二郎と知り合い、その紹介で理化学研究所の飯盛里安の研究室に参加。希元素鉱物の知識と採集能力を買われ、1936年から嘱託として迎えられました。

飯盛研究室では、長島の卓越した鉱物採集能力と現場での対応能力が大きく役立ちました。福島県や朝鮮半島など各地での調査において、多くの希元素鉱物を発見。中には新鉱物「阿武隈石」も含まれていました。長島は地元住民との交渉や契約なども自ら行い、調査の円滑な遂行に貢献しました。特に、福島県石川町周辺での大規模な開掘では、コルンブ石、緑柱石、サマルスキー石、モナズ石、ゼノタイムなどを大量に採集しました。これらの功績は、日本の希元素資源開発に大きく貢献しました。

戦時下の資源探査

日中戦争勃発後は、軍需物資としての希元素鉱物の重要性が増し、長島の活動は資源調達へとシフトしていきました。朝鮮半島での調査では、黒色のモナズ石など、それまで知られていなかった希元素鉱物を発見しました。また、満州国での調査にも参加し、フェルグソン石、ユークセン石などの新産鉱物を発見するなど、過酷な状況下でもその能力を発揮しました。終戦間近には、原子爆弾の原料であるウランの確保を目的とした調査にも参加しています。

戦後の活動と功績

終戦後は、日本学術振興会の希元素調査委員として資源探査に従事。小松製作所の嘱託として、飯盛里安と共にウラン鉱石の探査に携わりました。長年の功績が認められ、紫綬褒章を受章。1960年には、子息の長島弘三と共に『日本希元素鉱物』を著し、これは鉱物学研究における名著として高い評価を受けています。晩年はキリスト教の信仰を持ち、教会に通っていました。

エピソード

長島には多くの逸話が残されています。北海道での砂金調査の帰途、地元の運転手の言葉から鉱物産地を発見しようとしたものの、言葉の誤解から失敗に終わったというエピソードは、長島の探究心と人情味あふれる性格をよく表しています。

まとめ

長島乙吉は、専門教育を受けないアマチュア研究者として、並外れた努力と情熱で日本の鉱物学研究に貢献しました。その功績は、単なる鉱物採集にとどまらず、人材育成、国際交流、資源開発など多岐にわたります。長島乙吉は、まさに日本のアマチュア鉱物学の父と言えるでしょう。彼が残した功績は、後世の研究者たちに長く記憶されるに違いありません。また、彼のように専門的な教育を受けなくても、情熱と探究心があれば大きな成果を上げることができるという、素晴らしいロールモデルとなっています。

もう一度検索