サマルスキー石

サマルスキー石：放射性希土類鉱物の謎

サマルスキー石は、ウランやトリウムなどの放射性元素を含む希土類鉱物の一種です。黒色から黄褐色を呈し、ずんぐりとした角柱状または塊状の結晶として産出されます。その組成は複雑で、イットリウム（Y）を主成分とするイットリウムサマルスキー石と、イッテルビウム（Yb）を主成分とするイッテルビウムサマルスキー石の2種類が知られています。ただし、イッテルビウムサマルスキー石については、化学量論的な観点から疑問視する意見もあります。一般的にはイットリウムサマルスキー石の方が多く産出されるため、サマルスキー石といえば通常こちらを指します。

サマルスキー石は、高濃度のウランを含む場合、メタミクト鉱物となります。メタミクト鉱物とは、放射線損傷によって結晶構造が破壊された鉱物を指します。そのため、サマルスキー石は、黄褐色の土状の皮膜で覆われていることが多いのが特徴です。

産出環境と共存鉱物

サマルスキー石は、ペグマタイト（巨晶花崗岩）と呼ばれる火成岩中に産出します。ペグマタイトは、様々な希少鉱物を含むことが知られており、サマルスキー石も例外ではありません。コルンブ石、ジルコン、モナズ石、閃ウラン鉱、エシキン石、磁鉄鉱、曹長石、トパーズ、ベリル、ガーネット、白雲母、黒雲母など、様々な鉱物と共に見られることが報告されています。

歴史と名称の由来

サマルスキー石は、1847年にロシアのウラル山脈南部、イリメニ山脈のミアスで発見され、初めて記述されました。この鉱物から、1879年にサマリウムという新しい元素が単離されたことから、サマルスキー石は元素発見の歴史においても重要な鉱物といえます。その名称は、ロシアの鉱山役人であったワシーリー・サマルスキー＝ビホヴェッツ大佐に由来します。

一方、イッテルビウムサマルスキー石は、アメリカ合衆国コロラド州ジェファーソン郡の南プラット川流域のペグマタイト鉱床で発見され、2004年に初めて記述されました。

サマルスキー石グループと分類の変遷

サマルスキー石は、その複雑な組成と放射線損傷による結晶構造の乱れのため、長年にわたってその化学式や結晶構造が不明でした。しかし、近年、鉱物の加熱による結晶構造の復元や、人工合成による類似物質の生成、X線結晶構造解析や電子線マイクロアナライザなどの高度な分析技術の進歩により、サマルスキー石グループの理想化学式が解明されました。

2019年の研究により、サマルスキー石グループの理想化学式はAMB₂O₈（A=Y, Ln, Th, U⁴⁺, Ca；M=Fe³⁺, Mn²⁺；B=Nb, Ta, Ti）であることが明らかになりました。この式から、鉄(Fe)がサマルスキー石において必須成分であることがわかります。サマルスキー石グループには、イットリウムサマルスキー石やイッテルビウムサマルスキー石の他に、石川石、灰サマルスキー石、イットロタンタル石などが含まれます。

2023年には、国際鉱物学連合により「コルンブ石スーパーグループ」が定義され、サマルスキー石グループはその中に分類されました。しかし、石川石、灰サマルスキー石、イッテルビウムサマルスキー石については、構造に関するデータが不足しているとして、現状では「疑義あり」という暫定的なステータスに分類されています。今後のさらなる研究によって、これらの鉱物の分類が変更される可能性もあります。

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