長島信弘

長島 信弘（ながしま のぶひろ）氏は、1937年1月2日に東京都で生まれた、日本の代表的な文化人類学者です。一橋大学および中部大学の名誉教授として、長年にわたり教育と研究の分野で活躍しました。

経歴

長島氏は、1955年に東京都立小石川高等学校を卒業後、東京大学教養学部に進学しました。文化人類学を専攻し、同大学院生物学研究科では人類学とアフリカ民族誌の研究を深めました。大学院在籍中から国際基督教大学で非常勤助手として教壇に立ち、1965年には博士課程を単位取得退学しました。その後、国際基督教大学の助手となり、同年9月にはオックスフォード大学への留学を経験しました。

1968年からは本格的にアフリカでのフィールドワークを開始し、ウガンダのイテソ民族を対象とした綿密な民族誌調査を行いました。この期間、マケレレ大学社会調査研究所の準研究員および専任研究員としても活動しました。

帰国後、1970年に埼玉大学教養学部の文化人類学科助教授に就任。翌年には一橋大学社会学部講師を兼任し、1972年には同大学の助教授となり、社会人類学研究室の創設に尽力しました。1980年には一橋大学社会学部教授に昇任し、国立民族学博物館教授も兼任するなど、精力的に活動を展開しました。1987年には、長年のアフリカでの研究成果をまとめた論文「死と病の民族誌－ケニア・テソ族の災因論」により、東京大学から社会学博士号を取得しました。1996年には一橋大学社会学部長を務め、大学運営にも貢献しました。

1998年からは国際協力事業団（現在のJICA）の専門家としてウガンダに派遣され、プロジェクトリーダーとして現地での研究協力プロジェクトを主導するなど、国際的な活動にも携わりました。2000年に一橋大学を定年退官した後は、中部大学国際関係学部教授に就任。その後、特任教授、学長補佐としても大学に貢献し、2009年3月に中部大学を退任しました。

研究業績

長島氏の主要な研究対象は、アフリカ、特にウガンダやケニアのテソ族を中心とした民族誌です。彼の研究は、彼らの死生観、病気や不幸に対する文化的な理解（災因論）、親族関係、社会規範など、人間の生活や社会構造の根源に関わるテーマに深く切り込んでいます。これらの研究成果は、『テソ民族誌 その世界観の探求』や『死と病いの民族誌 ケニア・テソ族の災因論』といった代表的な著書にまとめられ、日本の文化人類学界に多大な影響を与えました。また、人類学の視点を広げ、現代社会の事象である競馬文化を分析した『競馬の人類学』は、その独創性が高く評価され、JRA賞馬事文化賞を受賞しています。

教育活動

一橋大学や中部大学などで長年にわたり教鞭を執り、多くの文化人類学者や社会学者を育てました。彼の指導を受けた学生の中には、坂内徳明氏（一橋大学名誉教授）、足羽與志子氏（一橋大学教授）、小馬徹氏（神奈川大学教授）、深澤秀夫氏（東京外国語大学教授）など、現在、学界の第一線で活躍している研究者が多数います。

著書・翻訳

研究書や一般向けの著作など、多数の書籍を執筆しています。代表的なものとして以下が挙げられます。

• - 『テソ民族誌 その世界観の探求』（中公新書、1972年）
• - 『死と病いの民族誌 ケニア・テソ族の災因論』（岩波書店、1987年）
• - 『競馬の人類学』（岩波新書、1988年）
• - 『社会規範－タブーと褒賞』（中内敏夫、石井米雄と共著、藤原書店、1995年）
• - 『長島教授の楽しみ倍増馬券講座』（草思社、2000年）
• - 『新・競馬の人類学』（講談社+α文庫、2002年）

また、文化人類学の古典や重要な研究書の翻訳も数多く手がけ、海外の学術成果を日本に紹介する上で重要な役割を果たしました。主要な翻訳書には、ゴドフリー・リーンハート『社会人類学』、エドマンド・リーチ『社会人類学案内』、エヴァンズ＝プリチャード『ヌアー族の親族と結婚』、マーヴィン・ハリス『文化唯物論』などがあります。

エピソード

研究者としての業績に加え、長島氏は熱心な競馬愛好家としても広く知られています。その関心は個人的な趣味にとどまらず、『競馬の人類学』という専門的な著作に結実し、学術的な評価も得ています。さらに、1980年代後半にはNHKの競馬中継番組にレギュラーゲストとして出演した経験もあり、その幅広い関心と深い洞察力は、専門分野の枠を超えて多くの人々に知られることとなりました。

長島信弘氏は、アフリカ民族誌研究のパイオニアとして、また教育者として、日本の文化人類学の発展に多大な貢献をしました。その研究は、人間の文化や社会の多様性を深く理解するための貴重な知見を提供し続けています。

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