長州藩下関前田台場跡

長州藩下関前田台場跡：幕末の激戦地

山口県下関市前田に位置する長州藩下関前田台場跡は、幕末の動乱期、特に下関戦争の舞台となった重要な史跡です。2010年8月5日に国の史跡に指定され、その歴史的価値が広く認められています。

時代背景と下関戦争

攘夷論の高まりと長州藩

幕末、攘夷論が高まる中、長州藩は関門海峡沿いに数々の砲台を築きました。その一つが前田台場です。1863年から1864年にかけての下関戦争は、この台場を中心に展開されました。

1863年、江戸幕府は朝廷の意向を受け、攘夷の実行を迫られました。しかし、幕府の攘夷政策は限定的なものであり、長州藩のような強硬な攘夷論者たちは、実際に外国船への攻撃を開始しました。

外国船への砲撃

長州藩は、1863年5月10日以降、関門海峡を通過する外国船への砲撃を開始しました。アメリカ商船ペンブローク号、フランスの通報艦キャンシャン号、そしてオランダ外交代表が乗ったメデューサ号が攻撃を受けました。これに対し、アメリカは報復としてワイオミング号を派遣し、長州藩の軍艦を撃沈しました。さらにフランスも報復として前田台場を砲撃し、周辺の民家を焼き払いました。

高杉晋作の登場と奇兵隊

米仏の報復攻撃を受けた長州藩は、高杉晋作に下関の防衛を任せました。高杉は志願兵による奇兵隊を結成し、防衛体制を強化しました。前田砲台も修復され、攘夷の実行に向けて体制を整えました。

四国連合艦隊による攻撃

1864年、駐日イギリス公使オールコックは、長州藩を武力攻撃することを決意しました。これにフランス、オランダ、アメリカも同調し、四国連合艦隊が結成されました。1864年8月5日、連合艦隊は下関を攻撃し、長州藩は惨敗しました。その後、講和談判が行われ、賠償金の支払いなどを条件に講和が成立しました。

前田台場の構造

低台場と高台場

前田台場は、茶臼山の南西麓、関門海峡に面した場所に位置しています。台場は南西側の低台場と北東側の高台場に分かれています。低台場は、1863年の外国船砲撃時に既に存在していましたが、フランス軍の攻撃で破壊されました。高台場は、1864年の四国連合艦隊による攻撃に備えて急遽築造されたものです。発掘調査により、低台場では大砲設置用の平坦面や排水溝が、高台場では大砲設置平坦面や土塁などが確認されています。

遺構の詳細

低台場の大砲設置平坦面は、幅約6メートルで、背後の平坦面との間には約50センチの段差があります。また、背後の平坦面には、砲台が焼き払われた時の焼土が残っています。イギリス軍の図面によると、低台場には西寄りに5門、東寄りに1門の大砲が設置されていました。高台場は、西へゆるやかに傾斜しており、土塁には敷石や板塀の跡が見られます。イギリス軍の図面によると、高台場には東寄りに4門の大砲が設置されていました。

発掘された遺物

銃弾と砲丸

低台場からは、銃弾3点と砲丸1点が出土しました。銃弾には、長州藩が使用していたゲベール弾と、連合艦隊が使用していたミニエー弾の2種類がありました。砲丸は、連合艦隊が使用していたもので、直径20センチ、重さ21キログラム強の球形です。

長州藩の大砲

下関戦争で長州藩が使用していた大砲は、戦利品として連合艦隊によって持ち去られました。イギリス側の記録によると、持ち去られた大砲は62門に上ります。これらの大砲は現在、ロンドンの王立砲兵博物館、パリのフランス軍事博物館、アムステルダム国立美術館、ワシントンD.C.の海兵隊博物館などに保管されています。フランス軍事博物館所蔵の2門のうち1門は、下関市立長府博物館に貸与されています。

まとめ

長州藩下関前田台場跡は、幕末の動乱期における重要な歴史的遺産です。下関戦争の舞台となったこの場所は、当時の激しい戦いの様子を今に伝えています。遺構や遺物を通して、私たちは歴史の一端に触れることができるでしょう。

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