長曽祢興里

長曽祢興里（虎徹）：江戸時代を代表する名刀工

長曽祢興里（ながそね おきさと、生没年不詳-延宝6年（1678年）6月24日没）は、江戸時代中期（寛文頃）に活躍した、日本刀の名工です。剃髪して入道名「虎徹」を名乗り、長曽祢虎徹興里、長曽祢興里虎徹、あるいは長曽祢興里入道虎徹などとも呼ばれています。寛政9年（1797年）に出版された『懐宝剣尺』において、最高の切れ味を持つ刀として「最上大業物」に選定されたことで知られています。

不明な出自と江戸での活躍

興里の出身地については、近江国長曽根村とする説と越前国とする説があり、定説は未だにありません。長曽祢一族は代々雑鍛冶や甲冑師を営んでおり、興里自身も50歳頃までその家業に従事していたとされています。その後、江戸に移り住み、刀工としての道を歩み始めました。彼の師匠については、和泉守兼重という説が有力視されています。

変遷する銘と偽造問題

興里は、作刀時期によって「虎徹」を表す銘の漢字を変化させていました。「古徹」「虎徹（はねとら）」「乕徹（はことら）」といったバリエーションがあり、中には「興」の下部が「い」に見える「い興」や「奥」に見える「おく里」など、複数の異称も存在します。この銘の頻繁な変化は、興里の刀が切れ味抜群で人気が高かったがゆえに、多くの偽物が作られたことへの対策と考えられています。偽物が多く出回るほどに、その切れ味は本物であったことを示す裏付けと言えるでしょう。

最上大業物としての評価

興里の刀は、後世の刀剣鑑定家である山田浅右衛門によって「最上大業物」に格付けされました。これは、同時代の山城国の名工である堀川国広と共に、新刀の双璧として称えられるほどの高い評価です。『懐宝剣尺』におけるこの評価は、興里の卓越した技術と切れ味を後世に伝える重要な証となっています。

多様な作品と後世への影響

興里は刀剣だけでなく、甲冑や兜なども制作していました。彼の作刀時期は、明暦から延宝頃（約20年間）と推定されています。現在、重要文化財や重要美術品に指定されている作品が多く現存し、その高い技術力と芸術性を示しています。代表的な作品には、紀州東照宮蔵の「刀〈銘 長曾禰興里入道虎徹／〉」、個人蔵の「蓬莱山虎徹」などがあります。これらの作品は、それぞれに独特の風格と切れ味を誇り、後世の刀工たちに大きな影響を与えました。また、彼が製作したとされる刀には、様々な逸話が伝えられており、その人気と知名度を物語っています。例えば、「石灯籠切虎徹」は、切れ味を誇示するために石灯籠まで斬ってしまったという逸話で有名です。

まとめ

長曽祢興里（虎徹）は、優れた技術と高い人気を誇った江戸時代を代表する刀工でした。その卓越した切れ味と、偽造問題に象徴される人気は、彼を新刀の第一人者としての地位に押し上げました。数々の逸話や現存する作品は、彼の業績と、後世への大きな影響を今に伝えています。彼の刀は、単なる武器ではなく、芸術作品として、そして日本の歴史の一部として、今もなお人々を魅了し続けています。

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