長澤榮治

日本の政治学者である長澤榮治（ながさわ えいじ）は、1953年4月に山梨県で生まれました。長年にわたり東京大学東洋文化研究所の西アジア研究部門で教鞭を執り、現在は同研究所の名誉教授の地位にあります。その主要な専門分野は、近代から現代にかけてのエジプト社会経済史です。

長澤氏の学術的なキャリアは、1976年に東京大学経済学部経済学科を卒業したことから始まりました。その後、アジア経済研究所での勤務を経て、東京大学東洋文化研究所の助教授に就任しました。さらに、日本学術振興会のカイロ研究連絡センター長を務めるなど、国際的な研究交流の現場でも活躍しました。これらの経験を積み重ねた後、東京大学東洋文化研究所の教授として、後進の指導と自身の研究に専念しました。2019年に東京大学を定年で退任し、名誉教授の称号を得ました。

研究活動において、長澤氏はエジプトの歴史や社会、経済構造について深く掘り下げた分析を行ってきました。特に、近代エジプトにおける社会変動や家族制度の歴史、経済発展の様相などに光を当てています。その研究は、単に過去の出来事を記述するだけでなく、現代エジプトが抱える諸問題の根源を理解するための重要な視点を提供しています。

エジプト研究に加え、長澤氏はパレスチナ問題についても精力的に研究を進めています。この分野では、学術的な分析に留まらず、在野の市民活動家との協力を通じて、定期的なシンポジウムの開催など、社会的な発信や問題提起も積極的に行っています。これにより、中東地域の複雑な政治・社会状況に対する一般市民の理解を深めることにも貢献しています。

長澤氏のこれまでの研究成果は、数多くの重要な著作や共編著として発表されています。代表的な著書には、エジプトのナショナリズムや社会経済について論じた英語の単著 “Modern Egypt through Japanese eyes : a study on intellectual and socio-economic aspects of Egypt nationalism” (Merit Publishing House, 2009年) があります。また、日本語の著作としては、『アラブ革命の遺産 エジプトのユダヤ系マルクス主義者とシオニズム』 (平凡社、2012年) や、『エジプト革命 アラブ世界変動の行方』 (平凡社新書、2012年) があり、これらは2011年の「アラブの春」以降のエジプト情勢を理解する上で重要な文献となっています。さらに、エジプトの思想や地域研究に関する『エジプトの自画像 ナイルの思想と地域研究』 (平凡社、2013年)、そして専門分野である社会史の集大成ともいえる『近代エジプト家族の社会史』 (東京大学出版会、2019年) などがあります。

また、様々な研究者との共同作業による編著も多数手がけており、例えば、地域研究の視点から世界史を捉え直す『地域への展望』 (山川出版社、2000年、木村靖二氏と共編)、日本の安全保障政策と中東の関係を論じた『中東と日本の針路 「安保法制」がもたらすもの』 (大月書店、2016年、栗田禎子氏と共編)、そしてアラブ革命後の政治状況やイスラームの役割を分析した『現代中東を読み解く アラブ革命後の政治秩序とイスラーム』 (明石書店、2016年、後藤晃氏と共編著) などがあります。

長澤榮治氏の研究活動は、エジプト社会経済史を中心に据えながらも、パレスチナ問題への深い関与、そして多様な共編著に見られるように、中東地域全体の複雑な歴史、社会、政治を多角的に理解するための貴重な貢献を続けています。その業績は、多くの研究者や学生にとって重要な礎となっています。

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