長與又郎

長與又郎：癌研究のパイオニア、そして東京帝国大学総長

長與又郎（1878年-1941年）は、日本を代表する病理学者であり、癌研究において世界的な権威として知られています。医学界の重鎮である長與專齋を父に持ち、東京神田に生まれました。慶應義塾幼稚舎、正則学校、第一高等学校を経て、東京帝国大学医科大学（現在の東京大学医学部）を卒業。その後、ドイツのフライブルク大学に留学し、研鑽を積みました。

帰国後は、東京帝国大学の助教授、そして教授に就任。病理学の研究に没頭する傍ら、夏目漱石の主治医を務めたことでも知られています。1916年、漱石の逝去に際しては、遺体の解剖を担当しました。

長與の活躍は病理学の研究にとどまりませんでした。東京帝国大学医学部長、伝染病研究所長などを歴任し、1934年には東京帝国大学第12代総長に就任。大学の長として、教育・研究の振興に尽力しました。1936年には帝国学士院会員に選ばれ、その功績は広く認められました。

文部大臣への就任要請を辞退したこともありますが、1938年には、当時の文部大臣である荒木貞夫から大学運営への介入を図られ、大学自治を守るため、激しく対立しました。結果、荒木の案は撤回され、長與は総長を辞任。同年、東京帝国大学名誉教授の称号を授与されました。

昭和初期には、満州に渡航し、関東軍司令部や731部隊を視察。石井四郎らとの交流もあったとされています。この点については、様々な解釈があり、歴史的検証が求められています。

一方、長與は癌研究にも深く関わっていました。がん研究会会頭として、がん研究所や附属病院（現がん研究会有明病院）の設立に尽力し、1941年には日本癌学会を設立。父・專齋の遺志を継ぎ、公衆衛生院や結核予防会の設立にも携わりました。

長與は晩年、自ら肺癌であると予言していました。そして、1941年8月15日、男爵の称号を授与された翌日、8月16日に死去しました。享年64歳。その功績は、日本癌学会による「長與又郎賞」の設立にも表れています。

東京帝国大学野球部長も務めた長與は、野球部寮「一誠寮」の看板を揮毫。しかし、「誠」の字の右側の「ノ」の画を書き忘れてしまった逸話も残されています。この「ノ」は、東大野球部が優勝した際に書き加える約束だったと言われています。

長與はボート競技にも親しみ、晩年には戸田漕艇場オープン時のデモンストレーションにも参加。高齢にもかかわらず、現役選手にも引けを取らない体力と情熱をみせつけました。

長與又郎は、優れた研究者、教育者であると同時に、大学自治を守り抜いた強い信念を持つ人物でした。その生涯は、日本の医学史、そして高等教育史においても重要な位置を占めています。彼の功績は、現在も多くの研究者や医師たちに影響を与え続けています。彼の業績は、日記『長與又郎日記 近代化を推進した医学者の記録』にも詳細に記録されています。また、彼の家族にも医師や作家など著名人が多く、日本の近代史に大きな足跡を残した一族として知られています。

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