長良川鵜飼

長良川鵜飼：1300年の歴史と伝統

長良川鵜飼は、岐阜県岐阜市の長良川で毎年5月11日から10月15日まで行われる、1300年以上の歴史を持つ伝統的な漁法です。中秋の名月と増水時を除く毎夜、篝火を焚いた鵜舟が川面を進み、鵜匠が鵜を操って鮎を捕らえる様子は、幻想的で見る者を魅了します。単なる漁法としてだけでなく、観光や文化、宗教的な行事としても重要な役割を担っており、その価値は高く評価されています。

起源と歴史

長良川鵜飼の起源は、漁としての鵜飼に遡ります。正倉院に所蔵されている大宝年間の戸籍には、1300年以上前に美濃国で鵜飼を生業とする集団が存在していたと推測されています。時代を経て、鵜飼は権力者の庇護を受けるようになり、江戸時代には徳川幕府や尾張家の保護のもとで行われました。明治維新後には一時、有栖川宮御用となりましたが、その後宮内省（現在の宮内庁）の直轄となり、現在に至ります。

長良川鵜飼の特徴

長良川鵜飼は、日本で唯一の皇室御用の鵜飼であり、長良川の鵜匠は「宮内庁式部職鵜匠」という職名を持ちます。鵜飼で使用される用具一式は国の重要有形民俗文化財に、鵜飼漁法は岐阜県指定重要無形民俗文化財に指定されています。また、鵜匠家に伝承される鮎鮓製造技術、鵜飼観覧船造船技術、鵜飼観覧船操船技術は、岐阜市指定無形民俗文化財となっています。

長良川中流域は、1985年に「名水百選」に、また岐阜市の長良橋から上流約1kmまでの水浴場は、環境省認定「日本の水浴場55選」「日本の水浴場88選」に選定されるなど、清流としても知られています。2015年には、「信長公のおもてなし」が息づく戦国城下町・岐阜」の構成文化財として日本遺産に認定されました。

漁法

鵜飼は、鵜匠が篝火を焚いた鵜舟に乗り、10～12羽の鵜を手縄で操りながら、篝火で驚いた鮎を鵜に捕獲させる漁法です。鵜匠は日頃から鵜と一緒に生活しており、その連携は見事です。鵜が捕らえた鮎は鵜匠によって吐き篭に吐き出され、漁獲されます。複数の鵜舟が横隊になって浅瀬に鮎を追い込む「総がらみ」という漁法は、特に幻想的な光景を作り出します。

鵜匠の装束

鵜匠は、伝統的な装束を身につけて鵜飼に臨みます。風折烏帽子は、頭に巻き付けて篝火から髪を守る役割があります。漁服は、鵜を驚かせないよう暗い色の木綿で作られています。胸当ては、火の粉や松脂を防ぐためのもので、収納ポケットにもなります。腰蓑は、水しぶきを払い体を冷えから守ります。足半は、藁でできた短い草履で、水垢や魚の脂で滑らないように工夫されています。

鵜

鵜飼に使用される鵜は、海鵜です。川鵜に比べて体が大きく丈夫なためです。野生の海鵜を捕獲し、2～3年訓練してから鵜飼に使われます。鵜匠は自宅で20羽前後の鵜を飼育し、漁に出る数時間前に鵜籠に入れ、その日の鵜の体調を見極めて漁に連れて行く鵜を決めます。鵜への餌やりは1日1回で、漁前は空腹状態に保ち、漁後にはじめて餌を与えます。鵜は常に同じ2羽で行動させることで、仲良くなり、漁での連携がスムーズになります。鵜の組み合わせには、雌雄の決まりはありません。

鵜鮎

鵜が捕らえた鮎は「歯形の鮎」と呼ばれ、鵜のくちばしの痕が付いています。鵜によって瞬殺されるため、新鮮で美味しいと言われています。この鮎は、通常市場に出回ることはありませんが、観光旅館やホテルによっては、鵜匠と契約して賞味できる場合があります。

漁場

かつて鵜飼の漁場は、美濃市州原から大垣市墨俣まで広範囲に及びましたが、現在は観光鵜飼が主体となっているため、実際の漁場は短縮されています。

御料鵜飼

長良川鵜飼は、皇室御用の鵜飼として、宮内庁式部職鵜匠によって行われています。鵜匠は、岐阜市長良に6人、関市小瀬に3人おり、代々世襲制で受け継がれています。御料鵜飼では、獲れた鮎は皇居に納められます。

観光鵜飼

長良川の観光鵜飼は、長良橋の上流付近で行われます。篝火を焚いた鵜舟がゆっくりと現れ、鵜が鮎を捕らえる様子を観覧船から見学できます。観覧船には、御手洗船や売店船もあり、鵜飼を楽しみながら飲食も可能です。乗船前には、鵜匠による鵜飼の説明があります。通常の鵜飼日は1回制鵜飼で、6隻の鵜舟が観覧船の前を1往復します。納涼鵜飼日は2回制鵜飼が行われます。

スケジュール

1. 受付
2. 鵜飼説明
3. 乗船
4. 出船
5. 停泊（食事など）
6. 鵜飼開始
7. 狩り下り
8. 総がらみ
9. 下船

鵜飼開き

毎年5月11日には、鵜飼開きが行われます。鵜飼の安全と繁栄を祈願する神事の後、太鼓の演奏に見送られ、観覧船が川へと漕ぎ出します。市民参加の各種イベントや花火の打ち上げなども行われます。

マスコット

長良川鵜飼のPRキャラクター「うーたん」は、鵜をデザインしたマスコットです。通常は鵜匠の衣装を着ていますが、PR対象の関連衣装を着ることもあります。2012年には、岐阜市の特別住民登録を受けています。

ふるさと学習

岐阜市内の小学校では、「総合的な学習の時間」の一環として、5年生が観覧船に乗船し、鵜飼を学習しています。船上ではクイズなども行われ、岐阜市から乗船料の半額が補助されます。

長良川鵜飼大使

鵜飼の魅力を広めるため、岐阜にゆかりのある著名人が「長良川鵜飼大使」に任命されています。過去には、桂三枝（現・六代目桂文枝）、高橋尚子、日比野克彦などが任命されています。

歴史

長良川鵜飼の歴史は、日本の鵜飼の歴史とほぼ重複します。平安時代には、美濃国で鵜飼が行われていた記録が残っています。戦国時代には、織田信長が鵜飼を見物し、鵜匠を鷹匠と同様に遇しました。江戸時代には、徳川家康が鵜飼に感銘を受け、毎年江戸城に鮎を献上するよう命じました。明治維新後には、天皇への献上が行われるようになりました。1918年には、英国皇太子（ジョージ5世）を迎え天覧鵜飼が行われました。チャールズ・チャップリンも2度鵜飼見物のために来岐しています。

長良川鵜飼は、1300年以上の歴史の中で、多くの人々に愛され、支えられてきました。その伝統と文化は、今後も大切に受け継がれていくことでしょう。

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