長野憲業

長野憲業（ながののりなり）は、日本の戦国時代に上野国（現在の群馬県）で活躍した武将です。箕輪城（現在の群馬県高崎市）を拠点とした長野氏当主として、山内上杉家の重臣を務めながら、上野国内での勢力拡大に尽力しました。長野氏を戦国大名へと成長させる上で重要な役割を担った人物と考えられています。

出自について

長野憲業の正確な系譜関係は、残念ながら史料が少なく判然としていません。いくつかの説が存在し、研究者の間でも議論が分かれています。

有力な一説では、彼は長野尚業（または業尚）の子であり、後の箕輪城主となる長野方業の兄であるとされています。また、彼の子としては、長野業氏、長尾景英の正室となった女子、そして有名な長野業正、さらに里見義堯の正室となった女子の名前が挙げられています。

彼の初名は信業であったとされ、後に主君である関東管領山内上杉家の上杉憲房から「憲」の字を賜り、憲業と名乗るようになったと伝えられています。しかし、この「信業」という人物についても、憲業とは別人、つまり兄弟であるとする説や、長野業正は信業の子であり、憲業の養子として家を継いだとする説なども存在します。

さらに複雑な異説としては、そもそも「信業」という人物の実在を否定し、憲業の没後に、厩橋長野氏の長野賢忠の弟にあたる長野方業（後に箕輪長野氏に入嗣したとされる人物）が憲業の後継者としてではなく、代わりに箕輪長野氏に入り、その方業の子が長野業正であるとする見解もあります。このように、長野憲業の出自や家族構成については、依然として多くの謎に包まれているのが現状です。

略歴

長野憲業の生涯は、文亀3年（1503年）に父とされる尚業（または業尚）の死去に伴い家督を継承したことから始まります。彼は関東地方の有力大名であった山内上杉家に仕え、その勢力拡大に貢献しました。

特に、関東の覇権を巡って山内上杉家と扇谷上杉家が争った長享の乱においては、主君である上杉顕定に味方し、扇谷上杉家の上杉朝良を屈服させる戦いにおいて重要な役割を果たしたとされています。

彼はまた、上野国内での自家の勢力確立にも積極的に取り組みました。室町時代から上野に勢力を持っていた惣社長尾氏や白井長尾氏といった他の有力国人との間で激しい抗争を繰り広げました。こうした戦いを通じて、憲業は上野国内の武士たちを結集させた「上州一揆」の中心的な存在となり、長野氏を単なる山内上杉家の被官から、自立した戦国大名へと押し上げようと努めました。

その努力は実を結び、大永年間の後半には、かつての上野における強敵であった両長尾氏をも凌ぐほどの勢力を築き上げることに成功しました。これは、後の長野業正による武田信玄との攻防の基盤を築いたものと言えるでしょう。

没年について

長野憲業の最期についても、残念ながら史料間で異なる記述が見られ、正確な没年は確定していません。一つの史料である『長年寺本長野系図』によれば、彼は享禄3年（1530年）に吾妻（現在の群馬県吾妻郡周辺）において戦死したと記されています。これは、長野氏が吾妻方面にも影響力を広げていたことを示す記述とも考えられます。

しかし、別の史料である『長野稔氏本長野系図』では、彼の没年を永正11年（1514年）としています。この永正11年没説を支持する論拠として、大永4年（1524年）には長野方業（系図によっては「左衛門大夫」と記される）が箕輪城主として文書を発給している記録が存在することが挙げられます。もし憲業が1530年まで生存していたとすれば、1524年に方業が城主として活動していたことと整合性が取れないためです。

この永正11年没説が正しいと仮定するならば、彼の戦死は、当時の山内上杉家内部で起きた激しい内紛である永正の乱（永正7年～永正11年頃）に関連する戦いの中で起きた可能性が高いと考えられます。没年が異なることで、彼の死後、箕輪長野氏の家督がどのように継承され、長野業正に繋がっていったのかという系譜解釈にも影響を与えることになります。

長野憲業は、このように出自や没年など不明瞭な点が多い人物ですが、限られた史料から判断するに、彼は戦国初期の上野国において、長野氏の勢力基盤を固め、戦国大名への脱皮を図った重要な武将であったことは間違いありません。彼の築いた基盤の上に、子または養子と伝えられる長野業正が、武田信玄の猛攻から箕輪城を長期間守り抜くことになるのです。

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