里見義堯

里見義堯：房総に覇を唱えた戦国武将

里見義堯（さとみ よしたか）は、戦国時代の武将であり、安房の戦国大名である里見氏の第5代当主です。父は里見実堯、母は佐久間盛氏の娘で、正室は土岐為頼の娘です。子には義弘、堯元、堯次、義政がいます。幼名は権七郎、官職は刑部少輔でした。

家督相続と内紛

永正4年（1507年）に生まれたとされる義堯は、天文2年（1533年）に里見氏の家中で発生した内紛（天文の内訌）により、父実堯が従兄の当主里見義豊に殺害されるという事態に直面します。この時、義堯は北条氏綱の支援を受け、重臣正木時茂と共に挙兵し、義豊を討ち家督を奪取しました。この一連の動きは、従来、義堯が父の仇を討ったという伝承が一般的でしたが、近年では、義堯と実堯が北条氏綱と結託したクーデターであったという説が有力です。義堯は家督を継承後、北条氏を裏切ったため、その事実を隠蔽するために、後年捏造されたと考えられています。

後北条氏との抗争

クーデターにより家督を継いだ義堯ですが、真里谷氏の家督争いに介入したことで、北条氏綱と敵対関係になります。当初は、関東に勢力を拡大する北条氏に対抗するため、小弓公方の足利義明と同盟を結びました。天文7年（1538年）の第一次国府台合戦では、義堯自身も参加しましたが、足利義明の戦死によって、関東中央部への進出の機会を得ることとなります。

足利義明の死後、義堯は下総や上総へと積極的に進出し、上総の久留里城を本拠として、里見氏の最盛期を築きました。しかし、天文21年（1552年）に北条氏康の策動によって、里見氏の傘下の国人領主が離反し、北条氏との間で激しい戦いが繰り広げられることとなります。

北条氏は房総半島に侵攻し、沿岸の金谷城や佐貫城を攻略しましたが、義堯は北条方に寝返った国人勢力を鎮圧し、奪われた領土の奪還を図りました。また、越後の上杉謙信と同盟を結び、北条氏に対抗する姿勢を明確にしました。弘治2年（1556年）には里見水軍を率いて北条水軍に勝利しましたが、この戦いは暴風雨による北条水軍の損害が大きかったため、完全な勝利とは言えないものでした。

永禄3年（1560年）、北条氏康が里見領に侵攻すると、義堯は久留里城に籠もって抗戦し、上杉軍の援軍を得て勝利しました。その後、義堯は家督を子の義弘に譲って隠居しましたが、実権は握り続けます。永禄7年（1564年）の第二次国府台合戦では、北条氏の奇襲と挟撃を受け、重臣の正木信茂を失うなど大敗を喫しました。この敗戦により、里見氏は一時的に衰退しますが、その後、義弘を中心に勢力を盛り返します。

永禄10年（1567年）の三船山合戦では、義弘率いる里見軍が北条軍を破り、上総の支配を優位に進めました。しかし、天正2年（1574年）に義堯は久留里城で死去し、その死後、里見氏は再び北条氏からの圧迫を受け始めました。

人物・逸話

義堯は、「五公」の二字を印文とした印判を用い、「正五」という入道名を用いていました。これは、世の秩序を正し、伝統的な鎌倉体制を保持することを願ったものでした。また、自らを「副将軍」と称し、関東の覇権をめぐって後北条氏と争い続けました。

義堯は、民から「万年君様」として慕われ、敵である後北条氏からも「仁者必ず勇あり」と称えられたといいます。その人柄と勇気は、多くの人々を惹きつけ、里見氏の全盛期を築き上げる原動力となりました。

家臣

正木時茂
正木憲時
正木時忠
正木時通
正木頼忠
土岐為頼
酒井敏房
秋元義久
安西実元
多賀高明
加藤信景

参考文献

川名登『房総里見一族』（増補改訂版）新人物往来社、2008年
川名登 編『すべてわかる戦国大名里見氏の歴史』国書刊行会、2000年
千野原靖方『新編 房総戦国史』崙書房出版、2000年
佐藤博信『中世東国政治史論』塙書房、2006年

関連作品

小説：府馬清『里見風雲録』（1975年 - 1976年、暁書房）
小説：小川由秋『里見義堯』（2005年、PHP研究所）
伝記：滝川恒昭『里見義堯』（2022年、吉川弘文館）

関連項目

戦国時代の人物一覧
里見氏
鶴岡八幡宮の戦い
小田原城の戦い (1560年)
里見公園

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