門中

門中（ムンチュー）：沖縄の父系血縁集団

門中（もんちゅう）とは、沖縄県に見られる、共通の祖先を持つ父系の血縁集団のことです。琉球方言では「ムンチュー」と呼ばれます。17世紀後半以降、士族の家譜編纂をきっかけに、沖縄本島中南部を中心に発達し、その後、本島北部や離島にも広がりました。ただし、その活動形態や組織の結束力は地域によって大きく異なります。

門中に似た血縁集団の概念は、日本の同族、中国の宗族、朝鮮半島の冠婚葬祭における本貫、ベトナムのゾンホなど、東アジアの漢字文化圏にも見られます。

沖縄における門中の特徴

門中は、17世紀後半に琉球王府が士族の家譜編纂を開始して以降、士族階層を中心に沖縄本島中南部で発展しました。本島南部では「ハラ」とも呼ばれます。琉球王国時代、士族は門中ごとに共通の姓（唐名の姓）と、大和名における名乗頭（名の最初の1字）を持っていました。例えば、向象賢（羽地按司朝秀）の場合、「向」は第二尚氏の按司以下の親族の姓、「朝」は名乗頭です。

門中では、共同の墓（門中墓、一般的に亀甲墓または破風墓）を持ち、かつては同一の墓に納骨されていました。門中の結束は固く、奨学金制度や託児所を設立するなどの活動も行われていました。しかし、女性が門中を継承できないなど、現代的な視点から見ると差別的な側面も存在します。現在では、門中に対する意識は徐々に薄れつつあります。

門中の法的位置づけ

最高裁判所の判例（昭和55年2月8日）では、以下の要件を満たす門中を「権利能力なき社団」（人格なき社団）と認定しています。

構成員が明確に特定できること
少なくとも明治時代から続く慣習により、代表者・事務員の選出方法が確立されていること
祖先から寄付された財産を有し、その収益を祭祀などの行事や相互扶助事業に充てていること

門中墓の例：幸地腹門中の墓

日本最大の墓と言われる「幸地腹（こうちばら）門中の墓」は、糸満市にあります。平成24年時点で3436人（門中名簿登録者）の一族が登録されており、一族のほぼ全員がこの共同墓に埋葬されています。17世紀半ばには、墓が手狭になったため、1684年に現在の場所に築造されました。当初は亀甲墓でしたが、昭和10年に琉球石灰岩を積み上げて現在の破風墓となりました。

墓地の面積は5400平方メートルで、中央に本墓、前に4つの仮墓、東側に子供墓が配置されています。本墓の内部は、右側の奥が門中の納骨エリア（池と呼ばれています）、左側が当初長女の嫁ぎ先門中（赤比儀腹門中）の池となっています。現代的に言えば納骨堂ですが、碑名などはありません。

本墓（ト－シー）と仮墓（シルヒラシ）があるのは、人が亡くなるとまず仮墓に埋葬され、3年後に洗骨して本墓に安置するためです。80歳以上の高齢者や、門中に功労があった人は、直接本墓に埋葬されます。現在、幸地腹門中だけで毎年30～35体程度が納骨されており、これまで5000体弱が納骨されたと推測されています。

門中墓の運営管理は宗家と役員が中心となって行い、その費用は構成員家族の人数割分担金と家族単位の行事分担金によって賄われます。一家族あたりの負担金は年間5千円程度で、構成員は一門の伝統行事（正月、お盆、清明祭（シーミー）など）に参加できます。構成員であれば宗教や宗派は問われません。

ある古老の言葉「お前たち、世の中に恥じるようなことをすれば、お墓に入ってからご先祖様にしかられるぞ」は、門中の人々の素朴な死生観をよく表しています。同じ墓に入るという仲間意識は非常に強いものです。18世紀末から19世紀初頭にヨーロッパ人が初めて琉球を訪れた際、「武器のない国」「礼節を守る国」であると同時に、住居よりも綺麗に保たれた「琉球の白い墓」が深い印象を与えたと伝えられています。

その他の地域の類似組織

奄美群島： ヒキと呼ばれる同様の血縁組織が存在します。
中国： 宗族が門中に近い形態を持ちます。また、福建省には亀甲墓に似た「亀殻墓」がありますが、亀殻墓には通常1人しか埋葬されず、内部構造も異なります（亀甲墓は横穴式、亀殻墓は竪穴式）。
朝鮮半島： 本貫という概念があります。
* ベトナム： ゾンホ（vi: dòng họ）という同様の概念がありますが、朝鮮半島ほど強固で大きな広がりはありません。

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