開城工業地区

開城工業地区とは

開城工業地区（ケソンこうぎょうちく）は、北朝鮮南部の開城市郊外に位置する経済特別区です。この地区には開城工業団地があり、かつては韓国企業が操業していました。南北融和の象徴として設立されましたが、北朝鮮の核実験や政治情勢により、操業停止と再開を繰り返す複雑な歴史を辿っています。

歴史的背景

2000年、当時の韓国大統領である金大中氏と北朝鮮の金正日総書記との間で、南北首脳会談が行われました。この会談で、開城工業地区の設立が合意されました。これは、北朝鮮が土地と労働力を、韓国が技術と資本を提供するという協力体制を築くもので、太陽政策の重要な成果と見なされました。

当初の計画では、広大な土地に2000以上の企業を誘致し、50万人の労働者によって年間160億ドル相当の製品を生産することを目指していました。2002年には北朝鮮で開城工業地区法が制定され、工業団地が設立に向けて動き出しました。2003年には第1期工事が開始され、2004年末には入居企業が生産を開始、2007年には鉄道による貨物輸送も始まりました。

しかし、北朝鮮のミサイル問題や核実験により、この事業には暗雲が立ち込めます。アメリカなどから問題提起がなされ、事業の先行きが不透明になりました。2007年には、韓国側が工業団地を「北朝鮮の改革開放」と位置づけたことに対し、北朝鮮側が不快感を示すなど、政治的な摩擦も発生しました。

2008年には、北朝鮮側が「南側の対北敵対姿勢」を理由に強硬姿勢を強め、列車の往来を中断させるなど、南北関係は悪化しました。2012年末には、123社が稼働し、5万4千人以上の従業員が働いていましたが、そのほとんどは北朝鮮側の人員でした。

核実験以降の危機と再開

2013年2月、北朝鮮が3度目の核実験を実施し、国連安保理は制裁を決議しました。これに対し、北朝鮮は開城工業地区の閉鎖を警告し、韓国人従業員の立ち入りを禁止、撤収を余儀なくされました。この間、韓国企業は契約破棄などの損害を被りました。

同年8月、南北両政府は工団の操業再開で合意し、9月に操業が再開されました。この時、韓国企業への税金免除など、一時的な救済措置も行われました。2015年には、中国が韓国との自由貿易協定で、開城工業地区で生産された一部製品を「韓国製」と認定しました。

運用停止とその後の動き

2016年2月、北朝鮮の弾道ミサイル発射実験を受け、韓国政府は工団からの資金が兵器開発に流用されることを防ぐため、操業停止と韓国人引き揚げを決定しました。これに対して北朝鮮側は強く反発し、工団を軍事統制地域として、韓国側人員の追放と資産凍結を宣言しました。

その後、北朝鮮が工団内の資材などを無断で持ち出したことが確認され、2017年10月には、韓国との協議なしに工場を再稼働させていたことが判明しました。2018年には南北共同連絡事務所が設置され、韓国側からの送電も再開しましたが、2020年6月には北朝鮮が同事務所を爆破し、再び緊張が高まりました。

開城工業地区の運営と経済的側面

開城工業地区は、韓国の資本と技術、北朝鮮の労働力が結びついた独特の運営形態でした。韓国土地公社が資金を拠出し、現代峨山が建設を担いました。工業団地は、軍事境界線に近い最前線に建設され、北朝鮮の法律が適用される一方で、実質的な運営は韓国側が行っていました。

北朝鮮側の労働者には、月額57.5米ドルが支払われていましたが、給与は直接労働者に渡されず、北朝鮮当局を通して支払われていたため、その多くが核開発などの資金に流用されていると推測されています。しかし、北朝鮮にとっては貴重な外貨獲得の手段となっていました。また、労働者にはチョコパイなどの菓子も配給されていました。

2012年には、韓国からの高圧送電線や浄水場、汚水処理場などのインフラが整備され、携帯[[電話]]やインターネット設備も導入される予定でしたが、核実験の影響で頓挫しました。

FTAと開城工業地区

韓国が他国と自由貿易協定（FTA）を締結する際、開城工業地区の製品を「韓国産」と見なすかどうかが問題となりました。一般的には北朝鮮産とみなされますが、韓国政府は交渉相手国に有利な条件を受け入れてでも、「韓国産」として認めるよう働きかけました。その結果、一部の国とのFTAでは韓国産として認められましたが、アメリカやEUとのFTAでは合意には至りませんでした。

交通と現状

開城工業地区には鉄道が通っており、鳳東駅と板門駅を結んでいますが、旅客列車は運行されておらず、貨物列車も長らく中断されたままです。現在、開城工業地区は閉鎖された状態が続いており、再開の見通しは不透明です。

まとめ

開城工業地区は、南北融和の象徴として設立されましたが、北朝鮮の核問題や政治情勢によって翻弄されてきました。その運営形態や経済的意義、政治的背景は、朝鮮半島の複雑な状況を反映しています。今後の動向が注目されます。

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