現代峨山

現代峨山（ヒュンダイアサン、英語: Hyundai Asan）は、大韓民国の現代財閥に属する企業であり、対北朝鮮事業を主な業務としています。本社はソウル特別市に所在し、北朝鮮側の金剛山や開城、韓国側の軍事境界線付近に支所を置いています。

創設と事業の開始

現代財閥の創業者である鄭周永（チョン・ジュヨン）は、1989年に韓国の財界人として初めて北朝鮮を訪問し、金日成（キム・イルソン）と会談するなど、以前から対北朝鮮事業に関心を持っていました。1998年、金大中（キム・デジュン）大統領が提唱した太陽政策の下、鄭周永は牛500頭と共に板門店を経由して北朝鮮を訪問し、金剛山観光事業に関する合意を北朝鮮当局と締結しました。この合意により、現代峨山は金剛山の海金剛－元山地域の観光地区の土地利用について、50年間の事業権を取得しました。しかし、事業開始が遅れたため、鄭周永は再度訪朝し、金正日（キム・ジョンイル）との直接面談を経て、1998年11月18日に金剛山観光を開始しました。これを皮切りに、現代財閥は本格的な対北朝鮮事業に着手しました。1999年2月、対北朝鮮事業専門企業として現代峨山が発足しました。当初から、鄭周永と共に五男の鄭夢憲（チョン・モンホン）が事業を主導しました。

財閥分裂と赤字

鄭夢憲は、兄の鄭夢九（チョン・モング）との後継者争いに勝利し、1998年に現代財閥の後継者となりました。しかし、2000年に鄭夢九は現代-起亜自動車グループを率いて独立し、弟の鄭夢準（チョン・モンジュン）も現代重工業グループを率いて現代グループから独立したため、現代財閥は縮小しました。金剛山観光は当初、期待されたほどの収益を上げられず、巨額の赤字が続きました。現代財閥には赤字を補填する能力がなく、2001年末から2003年にかけて、現代峨山では給料の遅配が頻発しました。2003年8月4日、鄭夢憲は現代峨山本社から飛び降り自殺をしました。

鄭夢憲の死後と事業の転換

鄭夢憲の死後、未亡人の玄貞恩（ヒョン・ジョンウン）が後継者となりました。対北朝鮮事業は鄭夢憲の死後の方が順調に進み、金剛山観光は黒字を計上するようになり、開城工業団地の建設も進みました。しかし、2006年には京義線と東海線の鉄道試運転が北朝鮮側の反対で中止となり、その後、北朝鮮のミサイル発射や核実験により、現代峨山の事業は内外からの厳しい批判にさらされるようになりました。2008年7月には、韓国人女性が北朝鮮兵に射殺される事件が発生し、金剛山観光が中止となりました。これにより、現代峨山は主力事業を失い、役職員の約85%を削減しました。2019年10月、金正恩（キム・ジョンウン）は金剛山にある韓国側の施設を「汚らしい」と批判し、撤去を指示しました。

対北朝鮮事業の問題点

対北朝鮮事業には、北朝鮮住民との交流が制限されていることや、観光料が北朝鮮当局に渡るなど、様々な問題点が指摘されています。金剛山観光は、北朝鮮の一般人から取り上げたのも同然であり、北朝鮮政府を利する事業ではないかとの批判があります。また、北朝鮮労働者への賃金も、現代峨山から直接渡されるのではなく、北朝鮮当局を通して渡されるため、給料の大部分が北朝鮮当局の懐に入っていると推定されています。これらの事業によって北朝鮮に流れる資金は、北朝鮮の延命に力を貸すものだという非難も受けています。

韓国政府との関係

現代峨山の事業は、韓国政府の太陽政策に強く影響を受けています。現代峨山の事業が中断しないよう、韓国政府は2002年に金剛山旅行代金を観光客に直接補助するという異例の措置まで講じました。一方で、北朝鮮と現代峨山が対立した場合などは、韓国政府の干渉を受けることもあります。現代峨山では、社員が少なくとも一度は北朝鮮に赴任する風潮があり、現地での仕事を通じて北朝鮮側の考えを理解することが推奨されています。しかし、北朝鮮での仕事はストレスが絶えず、息抜きの場もほとんどないという問題も指摘されています。

事業の現状と将来

現代峨山は金剛山と開城の独占開発権を握っており、進出企業との交渉などを担当していますが、2008年の金剛山観光中断以降、巨額の損失を出し続けています。2019年10月には、金正恩によって施設撤去が指示され、事業の先行きは不透明な状況です。現代財閥以外の韓国財閥は、対北朝鮮事業に及び腰であり、現代峨山が支払った巨額の対価と、事業を進めるたびに飛び出す無理難題から、北朝鮮を事業パートナーとすることは難しいという見方が強まっています。

年表

1989年1月：鄭周永現代財閥会長、北朝鮮を初訪問し、金日成らと会談。
1998年2月：金大中大統領就任、対北朝鮮宥和政策「太陽政策」開始。
1998年6月：鄭周永、牛500頭と共に板門店を越え2度目の訪朝。金剛山観光開始で合意。
1998年10月：鄭周永3回目の訪朝、金正日と会談し金剛山観光の正式許可を得る。
1998年11月：金剛山観光開始。
1999年2月：現代峨山創設。
1999年6月：金剛山観光中の韓国人観光客が北朝鮮当局に拘束され、金剛山観光一時中断。
2000年6月：平壌で南北首脳会談。
2000年8月：鄭夢憲と金正日が会談し、金剛山観光開発の推進と開城工業地区の開発開始で合意。
2000年9月：金正日、現代が作った金剛山観光施設を視察。
2001年1月：現代峨山の資金難が深刻化。
2001年3月：鄭周永死去。
2002年3月：韓国政府が金剛山観光客への観光費用の直接補助を行うことを決定（2002年度のみの措置）。
2002年4月：金剛山で第4回離散家族再会事業が行われる。以降離散家族再会は金剛山で行われるのが慣例となる。
2002年9月：京義線、東海線の鉄道・道路連結工事が着工される。
2002年11月：北朝鮮、金剛山を観光地区、開城を工業地区に設定する。
2003年2月：金剛山で軍事境界線を直接越える陸路観光の試験が行われる。また5億ドルにも及ぶ対北朝鮮秘密支援が行われた事実が明るみとなる。
2003年6月：開城工業団地着工、京義・東海線の南北鉄道の連結式が行われる。
2003年8月4日：鄭夢憲、現代峨山本社から投身自殺。
2003年9月：金剛山陸路観光本格化。
2004年12月：開城工業団地で製品生産が開始される。
2005年6月：金剛山観光100万人突破。
2005年8月：金剛山で離散家族の面会場が着工される。
2006年7月：離散家族再会事業中断に伴い、面会場建設も中断される。
2006年10月：北朝鮮が核実験を実施、金剛山観光事業と開城工業団地事業の継続が危機に陥る。
2007年12月：北朝鮮開城への陸路による日帰り観光ツアー開始。
2008年7月：金剛山で正規ルートを外れた韓国人観光客が北朝鮮兵に射殺される事件が発生。韓国からの金剛山観光が中断される。
2008年11月：北朝鮮側の南北間の往来制限措置により、韓国からの開城観光が中断される（韓国から北朝鮮への観光が全て中断）。
2011年8月：従業員の金剛山からの完全撤収。
2017年8月4日：金剛山特区での追悼式を北側が訪朝要請を拒否。
2019年3月：金剛山観光再開に向けた金剛山と開城にある施設の改・補修などに340億ウォンを投資、施設の改・補修のために414億ウォン規模の有償増資を発表。
2019年10月：金正恩による現代峨山の施設撤去命令。

関連情報

現代
金剛山 (朝鮮))
開城
太陽政策
鄭周永
鄭夢憲

外部リンク

現代峨山公式サイト（朝鮮語）
現代峨山公式サイト（英語）
* 現代峨山金剛山観光公式サイト（朝鮮語）

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