閑山島海戦
閑山島海戦
豊臣秀吉による朝鮮侵攻、文禄の役において、日本水軍と朝鮮水軍が激突した重要な海戦の一つです。1592年（文禄元年）7月8日、現在の閑山島と巨済島の間の海域で戦われ、朝鮮水軍が勝利を収めました。
背景
文禄の役が開始された1592年4月以降、日本軍は朝鮮南岸において当初目立った抵抗を受けることなく進撃しましたが、次第に海上輸送を担う日本の海運部隊が、全羅道水軍を率いる李舜臣を中心とした朝鮮水軍による攻撃に遭うようになります。同年5月には玉浦、泗川湾、唐浦といった海域で日本軍の輸送船団が立て続けに襲撃され、被害を受けました。
この状況を重く見た豊臣秀吉は、朝鮮水軍に対処するため、陸戦や後方支援に従事していた主要な武将である脇坂安治、九鬼嘉隆、加藤嘉明といった大名たちに水軍の編成と出撃を命じました。
閑山島海戦の展開
秀吉の命令を受けた脇坂安治、九鬼嘉隆、加藤嘉明らは、1592年6月14日に日本の前線拠点である釜山浦に集結しました。しかし、脇坂安治は他の二将の到着を待たず、単独で行動を開始します。彼は7月7日、巨済島方面へ向けて出撃しました。
一方、度重なる出撃で戦果を挙げていた朝鮮水軍の李舜臣は、日本の動きを察知すると、慶尚右水使の元均や全羅右水使の李億祺らが率いる部隊と合流するため出撃しました。合計で50隻以上の朝鮮艦隊が編成されました。
7月8日、朝鮮水軍は閑山島沖で脇坂安治の日本艦隊を発見します。元均は直ちに出撃して攻撃することを主張しましたが、李舜臣はこれを退け、事前に準備していた誘引迎撃戦術を用いることを決めました。これは、一部の船で日本艦隊を挑発して浅瀬や潮流の複雑な海域におびき出し、待ち伏せた本隊が包囲して撃滅するという戦術でした。この海戦には、装甲を持つとされる朝鮮水軍の主力艦である亀甲船も参加したと記録されています。
誘いに乗った脇坂艦隊は、朝鮮水軍の巧妙な戦術にはまり込み、集中攻撃を受けました。日本艦隊は多大な損害を被り、脇坂安治自身も危機に陥りましたが、座乗していた旗艦の優れた機動性を活かして辛くも戦場からの離脱に成功しました。
李舜臣の戦況報告書「見乃梁破倭状」では、この海戦で発見した日本艦隊を大船36隻、中船24隻、小船13隻とし、そのうち63隻を撃破したと記録されています。しかし、日本側の史料に基づけば、脇坂安治に与えられた動員計画上の兵力は1,500人程度であり、これは陸上兵力も含む可能性があります。この動員数を考慮すると、李舜臣の記録した発見数や撃破数は、実数よりもかなり多く報告されている可能性が指摘されています。韓国の一部で唱えられている、根拠なく兵力や損害を大幅に誇張する主張は、学術的な裏付けを欠いています。日本側の信頼できる史料によれば、脇坂隊の兵力は1,500人程度が妥当と考えられ、実際の戦死者はその後の動員数などから推定して、最大でも300人程度であったと考えられています。この戦いで脇坂隊は部将2名を失うなどの損害を出しました。
安骨浦海戦
脇坂の単独行動と敗戦を知った九鬼嘉隆と加藤嘉明は、遅れて出撃し、7月8日に安骨浦に停泊しました。報告を受けた李舜臣は、悪天候の後、7月10日に安骨浦の日本艦隊を襲撃します。
安骨浦周辺は浅瀬が多く、李舜臣は日本艦隊を誘い出そうとしましたが、日本側は応じませんでした。そのため、李舜臣は接近して大砲を浴びせる戦法に変更し、一日中攻撃を続けました。損害を受けた日本艦隊は夜間に撤退し、朝鮮水軍も翌日根拠地へ戻りました。
戦後の影響と戦略転換
閑山島での敗北は日本軍に衝撃を与え、豊臣秀吉は7月14日に大規模な海上決戦を禁じ、陸上部隊と連携した沿岸防御戦術への転換を命じました。この戦略変更により、その後の朝鮮水軍による攻撃の効果は限定的となり、損害が増加するなど苦戦を強いられることになります。
水陸並進作戦説に関する考察
文禄・慶長の役では、日本軍が陸軍と水軍を連携させて朝鮮西海岸沿いに進攻し、陸軍に補給を行う「水陸並進作戦」を計画していたとする説が、韓国を中心に存在します。この説は、朝鮮王朝の柳成龍が著した『懲毖録』に記述があり、日本軍の小西行長が朝鮮国王に送った「日本の水師十余万が西海から到来する」という言葉が根拠の一つとされています。
しかし、この小西の言葉は実際の日本水軍の規模とはかけ離れており、戦略的な駆け引き（ブラフ）であった可能性が高いと考えられています。当時の日本水軍の総勢は1万にも満たなかったと推定されます。柳成龍が小西のブラフを真に受け、李舜臣の勝利を水陸並進作戦阻止と解釈したことで、この説が生まれた可能性が指摘されています。『懲毖録』の影響もあり、韓日の歴史家や著述家の中にもこの説を採用する例が見られますが、日本軍の実際の行動（船手衆の内陸投入など）や史料からは、組織的な水陸並進作戦の存在は確認されていません。
関連情報
閑山島海戦を描いた作品として、韓国映画『ハンサン -龍の出現-』（2022年公開）があります。
豊臣秀吉による朝鮮侵攻、文禄の役において、日本水軍と朝鮮水軍が激突した重要な海戦の一つです。1592年（文禄元年）7月8日、現在の閑山島と巨済島の間の海域で戦われ、朝鮮水軍が勝利を収めました。
背景
文禄の役が開始された1592年4月以降、日本軍は朝鮮南岸において当初目立った抵抗を受けることなく進撃しましたが、次第に海上輸送を担う日本の海運部隊が、全羅道水軍を率いる李舜臣を中心とした朝鮮水軍による攻撃に遭うようになります。同年5月には玉浦、泗川湾、唐浦といった海域で日本軍の輸送船団が立て続けに襲撃され、被害を受けました。
この状況を重く見た豊臣秀吉は、朝鮮水軍に対処するため、陸戦や後方支援に従事していた主要な武将である脇坂安治、九鬼嘉隆、加藤嘉明といった大名たちに水軍の編成と出撃を命じました。
閑山島海戦の展開
秀吉の命令を受けた脇坂安治、九鬼嘉隆、加藤嘉明らは、1592年6月14日に日本の前線拠点である釜山浦に集結しました。しかし、脇坂安治は他の二将の到着を待たず、単独で行動を開始します。彼は7月7日、巨済島方面へ向けて出撃しました。
一方、度重なる出撃で戦果を挙げていた朝鮮水軍の李舜臣は、日本の動きを察知すると、慶尚右水使の元均や全羅右水使の李億祺らが率いる部隊と合流するため出撃しました。合計で50隻以上の朝鮮艦隊が編成されました。
7月8日、朝鮮水軍は閑山島沖で脇坂安治の日本艦隊を発見します。元均は直ちに出撃して攻撃することを主張しましたが、李舜臣はこれを退け、事前に準備していた誘引迎撃戦術を用いることを決めました。これは、一部の船で日本艦隊を挑発して浅瀬や潮流の複雑な海域におびき出し、待ち伏せた本隊が包囲して撃滅するという戦術でした。この海戦には、装甲を持つとされる朝鮮水軍の主力艦である亀甲船も参加したと記録されています。
誘いに乗った脇坂艦隊は、朝鮮水軍の巧妙な戦術にはまり込み、集中攻撃を受けました。日本艦隊は多大な損害を被り、脇坂安治自身も危機に陥りましたが、座乗していた旗艦の優れた機動性を活かして辛くも戦場からの離脱に成功しました。
李舜臣の戦況報告書「見乃梁破倭状」では、この海戦で発見した日本艦隊を大船36隻、中船24隻、小船13隻とし、そのうち63隻を撃破したと記録されています。しかし、日本側の史料に基づけば、脇坂安治に与えられた動員計画上の兵力は1,500人程度であり、これは陸上兵力も含む可能性があります。この動員数を考慮すると、李舜臣の記録した発見数や撃破数は、実数よりもかなり多く報告されている可能性が指摘されています。韓国の一部で唱えられている、根拠なく兵力や損害を大幅に誇張する主張は、学術的な裏付けを欠いています。日本側の信頼できる史料によれば、脇坂隊の兵力は1,500人程度が妥当と考えられ、実際の戦死者はその後の動員数などから推定して、最大でも300人程度であったと考えられています。この戦いで脇坂隊は部将2名を失うなどの損害を出しました。
安骨浦海戦
脇坂の単独行動と敗戦を知った九鬼嘉隆と加藤嘉明は、遅れて出撃し、7月8日に安骨浦に停泊しました。報告を受けた李舜臣は、悪天候の後、7月10日に安骨浦の日本艦隊を襲撃します。
安骨浦周辺は浅瀬が多く、李舜臣は日本艦隊を誘い出そうとしましたが、日本側は応じませんでした。そのため、李舜臣は接近して大砲を浴びせる戦法に変更し、一日中攻撃を続けました。損害を受けた日本艦隊は夜間に撤退し、朝鮮水軍も翌日根拠地へ戻りました。
戦後の影響と戦略転換
閑山島での敗北は日本軍に衝撃を与え、豊臣秀吉は7月14日に大規模な海上決戦を禁じ、陸上部隊と連携した沿岸防御戦術への転換を命じました。この戦略変更により、その後の朝鮮水軍による攻撃の効果は限定的となり、損害が増加するなど苦戦を強いられることになります。
水陸並進作戦説に関する考察
文禄・慶長の役では、日本軍が陸軍と水軍を連携させて朝鮮西海岸沿いに進攻し、陸軍に補給を行う「水陸並進作戦」を計画していたとする説が、韓国を中心に存在します。この説は、朝鮮王朝の柳成龍が著した『懲毖録』に記述があり、日本軍の小西行長が朝鮮国王に送った「日本の水師十余万が西海から到来する」という言葉が根拠の一つとされています。
しかし、この小西の言葉は実際の日本水軍の規模とはかけ離れており、戦略的な駆け引き（ブラフ）であった可能性が高いと考えられています。当時の日本水軍の総勢は1万にも満たなかったと推定されます。柳成龍が小西のブラフを真に受け、李舜臣の勝利を水陸並進作戦阻止と解釈したことで、この説が生まれた可能性が指摘されています。『懲毖録』の影響もあり、韓日の歴史家や著述家の中にもこの説を採用する例が見られますが、日本軍の実際の行動（船手衆の内陸投入など）や史料からは、組織的な水陸並進作戦の存在は確認されていません。
関連情報
閑山島海戦を描いた作品として、韓国映画『ハンサン -龍の出現-』（2022年公開）があります。
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