九鬼嘉隆

九鬼嘉隆：織田・豊臣両家に仕えた水軍武将の生涯

九鬼嘉隆は、戦国時代から安土桃山時代にかけて活躍した、名だたる水軍武将です。志摩国を拠点とする九鬼[[水軍]]の頭領として、織田信長、豊臣秀吉両雄に仕え、その卓越した水軍の指揮能力で幾多の戦いを制しました。その生涯は、海上の覇者としての輝かしい功績と、悲劇的な最期によって彩られています。

激動の生い立ちと織田信長への仕官

天文11年(1542年)、志摩国で九鬼氏の次男として生まれた嘉隆。家系は不明な点が多いものの、代々志摩を拠点とした名家で、水軍を束ねる家柄でした。幼少期から水軍の術に親しみ、その才能を開花させていきます。

青年期には、兄の死後、家督を継いだものの、志摩国内の抗争に巻き込まれ、一時的に朝熊山に逃亡するなど、困難な時期を経験します。しかし、そこで滝川一益の仲介により織田信長に仕えることとなり、その後の嘉隆の運命を大きく変える転機となります。

織田家臣としての活躍

信長に仕えた嘉隆は、その水軍の腕前を遺憾なく発揮しました。北畠氏の支城を陥落させたり、長島一向一揆の鎮圧では、海上からの攻撃で織田軍を支援するなど、数々の戦場で活躍。信長の信頼を勝ち得て、次第に勢力を拡大していきます。

特に、信長の命を受けた大安宅船の建造と、それによる本願寺勢力の海上封鎖は、嘉隆の力量の高さを示す大きな業績です。木津川口の戦いでの活躍は、織田軍の勝利に大きく貢献し、領地と石高の加増に繋がりました。本能寺の変の際には堺にいたとされ、その後の動向も注目されます。

豊臣秀吉への転向と朝鮮出兵

本能寺の変後、一時織田信雄に仕えた嘉隆ですが、小牧・長久手の戦いを機に、豊臣秀吉に寝返ります。秀吉の下でも水軍の頭領として重用され、九州平定や小田原征伐など、重要な戦役に参加。従五位下大隅守に叙任されるなど、その地位は盤石なものとなりました。

文禄の役では水軍の総大将として活躍。安骨浦城の建築にも携わるなど、朝鮮出兵においても重要な役割を果たしました。一方、慶長の役には出陣していません。

関ヶ原の戦い：西軍への加担と悲劇的な最期

慶長5年(1600年)、関ヶ原の戦いが勃発します。嘉隆は西軍に与しますが、これは家名を存続させるための策略とも考えられています。息子の守隆は東軍に与し、結果的にどちらの勢力が勝利しても九鬼家は存続できるという打算があったと推測されます。

鳥羽城を奪取し、伊勢湾の海上封鎖を実施するなど活躍を見せますが、西軍の敗北後、鳥羽城を放棄して答志島に逃亡。家臣の独断による切腹を余儀なくされ、59歳で生涯を終えました。その首級は伏見城に送られましたが、後に守隆によって答志島へ運ばれ、埋葬されました。

海賊大名としてのイメージと多様な側面

海賊大名としてのイメージが強い嘉隆ですが、茶道にも造詣が深く、津田宗及らとの交流も知られています。武勇だけでなく、教養にも優れた人物であったことがうかがえます。

後世への影響

九鬼嘉隆の功績は、現在も語り継がれ、様々な形で顕彰されています。鳥羽市では「しろやま嘉隆まつり」が開催されるなど、地元では重要な歴史的偉人として認識されています。また、その子孫は現代においても活躍しています。

参考文献

宇田川武久「毛利氏の水軍編成」（河合正治編『毛利元就のすべて』新人物往来社、1986年）
石井謙治「巨大安宅丸の研究」（『海事史研究』22号、1974年）
石井謙治『和船 II』（法政大学出版局、1995年7月）
藤本正行「再検討・新史料で描く信長建造の｢鉄甲船｣」（『歴史読本』1982年11月号）
藤本正行『信長の戦国軍事学―戦術家･織田信長の実像―』（ＪＩＣＣ出版局、1993年）
池上裕子『織田信長』（吉川弘文館、2012年）

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