間接正犯

間接正犯とは

間接正犯とは、他人を道具のように利用して、自らの犯罪を実現する正犯の一形態です。ここでいう「利用する」とは、他人を操り、自分の犯罪目的を達成するために使うことを意味します。この点で、共犯とは異なり、犯罪を主導する者が正犯として扱われます。

間接正犯の成立要件

間接正犯が成立するためには、以下の2つの要件を満たす必要があります。

1. 利用者の正犯意思：犯罪を実現しようという明確な意思を持っていること。
2. 被利用者の道具性：利用される側が、自分の意思で犯罪を行っているのではなく、利用者に操られている状態にあること。

道具性の詳細

道具性とは、以下のいずれかに該当する場合に認められます。

被利用者の行為が刑法上の行為に当たらない場合
被利用者の行為が構成要件要素を欠き、犯罪が成立しない場合
被利用者の行為が違法性を欠く場合

具体例として、医師が看護師に毒入り注射を指示するケースが挙げられます。看護師が事情を知らずに注射した場合、看護師には犯罪の故意がないため、道具として利用されたとみなされます。

ただし、判例では責任を欠く場合も道具性ありとしていますが、批判も多いです。例えば、子どもに窃盗をさせるケースでは、間接正犯とするか、教唆犯とするかで議論があります。

間接正犯の実行の着手時期

間接正犯の実行の着手時期については、学説や判例で意見が分かれています。

利用者行為標準説：利用者が犯罪行為を開始した時点（例：医師が看護師に注射器を渡したとき）とする説。しかし、この時点ではまだ現実的な危険が生じていないという批判があります。
被利用者行為標準説：被利用者が犯罪行為を開始した時点（例：看護師が注射したとき）とする説。しかし、常に現実的な危険が生じるとは限らないという批判があります。
個別説：現実的な危険が惹起された時点と解する説。現在、有力な説となっています。

間接正犯と錯誤

間接正犯が成立するためには、利用者が被利用者を道具として利用する意図を持っている必要があります。もし、利用者が道具として利用しようとした者が、途中でその意図に気付き、自らの意思で犯罪を実行した場合は、間接正犯は成立しません。

例えば、医師が毒入り注射器を看護師に渡し、看護師が途中で医師の意図に気付いて殺意を持って患者に注射した場合、医師は間接正犯ではなく、教唆犯として扱われます。

自手犯

自手犯とは、正犯自身の直接的な行為が不可欠な犯罪類型であり、間接正犯が成立しない犯罪を指します。例えば、公務員による収賄罪などが挙げられます。

まとめ

間接正犯は、他人を利用して犯罪を実現する複雑な犯罪形態です。成立要件、実行の着手時期、錯誤など、様々な論点があり、刑法の中でも重要なテーマの一つです。間接正犯を理解することで、より深く刑法の世界を探求することができます。

関連用語

刑法
正犯
故意ある道具
原因において自由な行為

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