間違いの喜劇

シェイクスピア喜劇『間違いの喜劇』：運命のいたずらと笑劇の渦

ウィリアム・シェイクスピアによる喜劇『間違いの喜劇』（原題: The Comedy of Errors）は、短くも魅力的な作品として知られています。1594年以前に書かれたと推定され、時に『間違いつづき』とも訳されるこの劇は、シェイクスピアの初期作品か否か、議論が絶えない点も興味深いところです。

物語のあらすじ：運命に翻弄される双子の兄弟

シラクサの商人イージオンは、エフェソスへの不法侵入で逮捕、巨額の罰金または死刑を宣告されます。彼には双子の息子アンティフォラスと、それぞれに仕える双子の召使いドローミオがいました。しかし、かつての船の遭難で、イージオンは妻ともう一組の双子（息子の兄と召使いの兄）と離れ離れになっていたのです。

シラクサで暮らす弟アンティフォラスと弟ドローミオは、行方不明の兄を探し、エフェソスを訪れます。ところが、エフェソスでは兄アンティフォラスがすでに成功し、エイドリアーナという妻と暮らしていました。

ここから、ドタバタ劇が始まります。弟アンティフォラスと弟ドローミオは、エイドリアーナに夫と間違われ、一方、本物の夫である兄アンティフォラスは、妻に拒絶され、家を閉め出されてしまうのです。

この身分違いによる騒動は、さらに複雑に絡み合い、最終的には兄アンティフォラスが逮捕される事態に発展します。しかし、運命の皮肉は、処刑場で兄弟たちが再会を果たすことで、劇的なクライマックスを迎えます。さらに、エフェソスの尼僧院長が、実はアンティフォラス兄弟の母エミリアであることが明らかになり、イージオンも死刑を免れます。家族の再会と赦しは、宴となって祝われます。

主要登場人物：個性豊かな面々

この劇を彩る登場人物たちも、物語に深みを与えています。

兄アンティフォラス（エフェソスのアンティフォラス）: イージオンの息子で、弟とは双子。エフェソスで成功し、結婚もしています。
弟アンティフォラス（シラクサのアンティフォラス）: 兄と双子の弟。兄を探してエフェソスにやってきます。
兄ドローミオ（エフェソスのドローミオ）: 兄アンティフォラスに仕える召使い。
弟ドローミオ（シラクサのドローミオ）: 弟アンティフォラスに仕える召使い。
* イージオン: シラクサの商人。アンティフォラス兄弟の父。息子たちを探す旅の途中で、エフェソスで逮捕されます。

作品の背景：創作年代と影響

『間違いの喜劇』が初めて出版されたのは、1623年のことでした。しかし、1594年12月28日には、ロンドンのグレイズ・イン法学院で上演されたという記録が残っており、これが最古の記録とされています。

創作年代については、1591年から1593年頃とする説や、1594年とする説など、様々な意見があります。また、シェイクスピアが他の作品よりも後にこの作品を書いたと推測する説もあり、初期の作品かどうかは定かではありません。

この劇の筋立ては、古代ローマの劇作家プラウトゥスの『メナイクムス兄弟』に大きく影響を受けています。シェイクスピアは、プラウトゥスの作品を基にしながらも、召使いも双子にするなど、独自の工夫を加えています。

上演の歴史と現代への影響

1594年の初演は、クリスマスの祝祭時期と重なり、大盛況だったと伝えられています。しかし、その後は18世紀まで上演されることはほとんどありませんでした。18世紀以降は、改作の上演が盛んになり、現代でも、日本を含む世界中で、さまざまな形で上演、翻案されています。劇団シェイクスピア・シアターによる公演は、特に日本国内の高校や大学での芸術鑑賞会で頻繁に行われています。

映画や狂言、ミュージカルといった関連作品も数多く存在し、『間違いの喜劇』は、シェイクスピア作品の中でも、長く愛され続ける人気作であると言えるでしょう。

もう一度検索