阪神121形電車

阪神121形電車：甲子園の夏を彩った「アミ電」

阪神121形電車は、阪神電気鉄道がかつて保有していた路面電車車両で、主に甲子園線で活躍しました。その最大の特徴は、腰板と窓を取り払い、代わりに金網を張った開放的なスタイル。この独特な外観から「アミ電」という愛称で親しまれました。

誕生の背景

甲子園は、阪神電鉄が開発に力を注いだ地域であり、阪神甲子園球場や阪神パークといった施設が建設されました。また、当時は海水浴場としても賑わい、阪神間モダニズムの舞台ともなりました。甲子園線を走る121形は、これらの観光客輸送を担う役割も担っていました。1936年に開催された「輝く日本博覧会」に合わせて、博覧会のPRと納涼観光を目的として、手持ちの資材を有効活用して製造されました。

121形は、1936年6月に121・122の2両が有蓋電動貨車の改造名義で登場し、1938年4月には123・124の2両が別の車両の改造名義で登場しました。

車体

車体は、331形の鋼体化改造で余剰となったものをベースに大改造を施したものです。屋根と運転台部分を除き、側板を撤去してスケルトン構造とし、網状の鉄板を張りました。窓の高さに相当する部分には保護棒が設けられています。ただし、121・122と123・124では構造が異なり、123・124では側面の網板が脱着可能になり、室内ヒーターが取り付けられました。また、側面のドア数も異なっています。

車体中央部のドアは甲子園や浜甲子園の高床ホーム専用で、前後のドアは併用軌道区間用として、ステップ付き構造になっていました。前面は5枚窓から中央を残して左右を1枚窓にしたことで、スマートな外観に仕上がっています。ヘッドライトは121・122が中央窓下に、123・124が中央窓上に取り付けられました。

塗装は車体がライトグリーン、屋根上が銀色で、内装はクロスシートを活用し、入口付近に1人掛け、内部に2人掛けの座席を向かい合わせに配置。床の点検蓋が当たる部分には1人掛けの座席を配置するなど、工夫が凝らされていました。座席には白いカバーがかけられ、天井や制御器は白く塗られ、室内照明にはブラケット付きの白熱灯が取り付けられ、納涼感と観光電車らしさを演出していました。

主要機器

台車及び電装品は、121・122と123・124で異なっています。前者はJ.G.ブリル社製台車を装着し、ウェスティングハウス・エレクトリック社製主電動機を搭載。制御器はゼネラル・エレクトリック社製でした。後者は別の種類の台車を装着し、モーターも異なるものが搭載されました。集電装置はシングルポールで、併用軌道区間を走るため救助網が取り付けられていました。

運用と廃車

121形は、甲子園線の納涼電車として運転を開始し、好評を博しました。冬季には取り外し式の腰板と窓を取り付け、ヒーターを設置して通年で使用できるようにしました。1938年には123・124が登場し、側板の脱着機能などが改良されました。しかし、側板の取り替えに手間がかかることや、夕立などによる運用上の不便さから、後には冬姿で運用することが多くなりました。

その後、国道線でも運用されましたが、車体構造が特殊であることや、クロスシートのため乗客増に対応しにくいことから、201形での置き換えが計画されました。しかし、201形の製造認可が下りないまま休車となり、戦後は尼崎車庫で留置されたまま、1954年3月に3両が廃車。残る1両も無蓋電動貨車に改造され、「アミ電」121形は形式消滅しました。

121形電車は、短い期間ではありましたが、甲子園の夏の風物詩として、多くの人々に親しまれました。

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