阿内正弘

阿内 正弘

日本の哲学研究者であり、淑徳大学で教鞭を執った人物。1958年に生を受け、2001年9月24日に43歳の若さでこの世を去った。

生涯と学歴

阿内正弘は、東京都大田区にて誕生した。少年時代は世田谷区で過ごし、区立の用賀小学校、次いで用賀中学校に通った。幼い頃から早熟な才能を示し、特に小学生の頃には既に株式の世界に強い興味を持っていたことが知られている。この時期の彼が残した詳細な株式に関する記録は、後に彼の母である阿内千鶴子氏の手により編纂され、『正弘の日記』として自費出版されている。

1977年、慶應義塾高校を卒業。その後、慶應義塾大学経済学部に進み、1981年に卒業した。経済学を修めた後、彼は学問の探求の場を哲学へと移し、筑波大学大学院人文学類哲学専攻の博士課程へと進学した。大学院での深い研究を経て、1989年には博士課程を修了し、文学博士の学位を取得している。

研究者としての歩み

博士課程修了後、阿内は研究者・教育者としてのキャリアをスタートさせた。淑徳大学に迎えられ、助教授として勤務したのち、教授へと昇進した。大学では哲学を教え、とりわけドイツの哲学者マックス・シェーラーの倫理思想を中心に据えた研究を行った。

人物像と趣味

研究室を離れた阿内正弘は、多彩な趣味を持つ個性豊かな人物であった。特に、熱烈な阪神タイガースファンであることは周囲に広く知られていた。また、酒をこよなく愛する一方で、そのために体調を崩し、救急車のお世話になることも複数回あったという逸話も残っている。

もう一つの大きな情熱の対象は鉄道であった。彼は筋金入りの鉄道趣味家であり、日本全国の鉄道路線を全て乗りつくすという偉業を達成している。一度全国を制覇した後もその熱意は衰えず、二度目の全国制覇を目指していた。

彼が学んだ用賀小学校・中学校には、後の著名人が多数在籍していた。阿内よりも1年先輩には、後に日本サッカー協会会長やFIFA理事となる田嶋幸三氏がいる。また、作家・タレントとして知られる乙武洋匡氏も、同じく用賀小学校・中学校の後輩にあたる。

業績と突然の死

阿内正弘は、研究活動を通じていくつかの著作を世に送り出した。主要なものとしては、自身の専門であるシェーラー研究の成果をまとめた『マックス・シェーラーの時代と思想』や、理性と共感の伝統について論じた『理性の光と闇 理性の伝統から共感の伝統へ』などがある。これらの著作は、彼の哲学的な探求の軌跡を示すものである。また、アルフォンス・デーケンらの哲学書や、ジーン・シノダ・ボーレンの心理学関連書の翻訳にも携わった。

全国の鉄道路線の二度目の制覇を目指していた最中、不幸にも突然の出来事が彼を襲った。上越線に乗車していた折、持病が悪化し、そのまま帰らぬ人となったのである。2001年9月24日のことであった。享年43歳。鉄道趣味に生きた彼らしい最期とも言えるが、あまりにも早すぎる死であった。

短い生涯ではあったが、哲学研究者として、そして多彩な趣味を持つ人物として、阿内正弘はその存在を人々の記憶に刻んでいる。

主な著作

『マックス・シェーラーの時代と思想』春秋社 1995年
『理性の光と闇 理性の伝統から共感の伝統へ』北樹出版 1997年
『正弘の日記』阿内千鶴子編 北樹出版 2005年

主な翻訳

アルフォンス・デーケン『人間性の価値を求めて マックス・シェーラーの倫理思想』春秋社 1995年
* ジーン・シノダ・ボーレン『タオこころの道しるべ』湯浅泰雄監訳 渡辺学, 白濱好明共訳 春秋社 2001年

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