阿部定事件

阿部定事件

阿部定事件は、1936年5月18日に東京都荒川区で発生した猟奇的な殺人事件です。事件の主な当事者である阿部定は、仲居をしていた女性で、愛人の男性を絞殺し、その性器を切断しました。この衝撃的な事件は、当時の新聞やメディアで大きく取り上げられ、国民の関心を集めたことでも知られています。

事件の経緯

阿部定は1905年に東京で生まれ、芸者や娼婦として生活をしながら各地を転々としていました。名古屋で小料理屋に勤務していた際、彼女は大宮五郎と交際を始めました。大宮は地元の有力者であり、定との将来を真剣に考えていたようですが、彼女はその愛情に深く応えることができませんでした。

1936年2月、定は名乗りを変えて東京の鰻料理店で女中として働くようになり、やがて店主との密な関係が始まります。彼女は次第に心の内で葛藤を抱えながら、石田という店主との愛にのめり込んでいきました。しかし、その関係は他の女性との関わりも暗示され、定は不安を感じ始めました。

殺人事件の発生

事件の日、定は石田との性行為中に過激な行動に出ます。石田と共に快楽を追求する中で、強く首を絞めるプレイを取り入れるようになったことが、悲劇的な結末をもたらしました。5月16日から17日にかけ、二人は過剰なまでの行為に耽り、ついに定は石田を絞殺するに至ります。

彼女はその後、遺体から性器を切断し、血を流しながら記念の文字をシーツに書き残しました。このような残忍な行動が報道に取り上げられ、国民は驚愕と興奮をもって事件を目の当たりにしました。

重罪に対する逮捕と裁判

事件の発覚後、定はしばらく行方をくらましましたが、捜索が進む中で逮捕されました。彼女はこの事件を「愛の独占」として説明し、石田に対する深い愛情があったことを主張しました。法廷では、彼女の行動がどのような心理状態から発生したのかが議論されました。

定は最終的に殺人罪と死体損壊罪で起訴され、懲役6年の判決を受けることになりますが、1941年に早期出所を果たしました。終戦後も彼女の名前は人々の記憶に残り、様々な作品に影響を与えました。

文化的影響

阿部定事件は、多くの小説や映画にテーマとして取り上げられ、日本の文化に強い影響を与え続けています。特に、1976年に公開された映画『愛のコリーダ』は、事件をもとにしたもので、国内外で話題となりました。事件を素材にした作品の中には、彼女の人生や心理に焦点を当てたものも見られます。

その後の人生

阿部定は出所した後、名前を変えて新たな生活を始めました。しかし、彼女の過去は消え去ることはなく、彼女を巡る興味は続きました。1971年には失踪し、その後の消息は途絶えました。事件のインパクトは大きく、特に日本の近代史やメディア報道のあり方についても多くの議論がなされています。さまざまな角度から再解釈され続けるこの事件は、日本の文化や社会における一つの象徴として今なお語り継がれています。

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