陰嚢腫大

陰嚢腫大（いんのうしゅだい）

陰嚢が通常よりも大きく膨隆した状態を指す。この状態は、様々な原因によって引き起こされる可能性があり、中には緊急性の高い疾患や悪性腫瘍なども含まれるため、専門医による正確な診断が不可欠である。単に見た目の変化として捉えられがちであるが、その背景には多様な病態が隠されていることがある。

陰嚢腫大の主な原因：陰嚢内腫瘤

陰嚢腫大の原因の中でも比較的頻度が高いものとして、陰嚢内部に異常な組織塊や液体貯留などが形成される「陰嚢内腫瘤」が挙げられる。これらの腫瘤は、その性質（良性か悪性か）、発生部位、内容物、痛みの有無などによって多岐にわたる疾患を呈する。以下に、代表的な陰嚢内腫瘤の原因疾患とその特徴を述べる。

１．精液瘤（せいえきりゅう）

精巣の上部に位置する精巣上体に発生する嚢胞性病変である。精液成分を含んだ液体が貯留して形成されると考えられている。特徴としては、通常は痛みを伴わない無痛性であることが多い。また、光を透過させる性質（透光性あり）を持つことが多い。触診では、精巣とは別の場所に、比較的弾力のあるしこりとして触れることがある。多くは良性であり、特に症状がなければ経過観察されることが多いが、大きくなって不快感や痛みを伴う場合には手術による摘出が検討される。

２．陰嚢水腫（いんのうすいしゅ）

精巣を包む鞘膜という膜の間に、通常よりも多量の液体（漿液）が貯留した状態である。小児によく見られるが、成人でも発生する。小児の場合、腹腔と陰嚢をつなぐ経路が閉じずに液体が流れ込むことで発生することが多いが、成人では感染、炎症、外傷、あるいは原因不明で発生することもある。精液瘤と同様に、通常は痛みを伴わない無痛性であり、透光性ありという特徴を持つ。陰嚢全体が均一に腫大することが多く、液体貯留量によっては陰嚢が非常に大きくなることもある。症状がなければ経過観察されるが、大きくなって不快感や圧迫感、美容的な問題が生じる場合には、穿刺吸引や手術（鞘膜切除術など）が行われる。

３．精巣腫瘍（せいそうしゅよう）

精巣自体から発生する悪性腫瘍であり、比較的若い世代（15歳〜35歳頃）に多く見られる。早期発見と早期治療が非常に重要であり、適切な治療によって予後が大きく期待できる疾患である。特徴としては、多くの場合、痛みを伴わない無痛性の精巣のしこりとして自覚される。精巣全体が硬くなったり、大きさを増したりすることもある。精液瘤や陰嚢水腫と異なり、内部が充実性であるため、光を透過させない透光性なしという特徴がある。陰嚢内の硬いしこりを自覚した場合、特に痛みがなくても、精巣腫瘍の可能性を考慮して速やかに専門医を受診する必要がある。診断には超音波検査、CT検査、血液検査（腫瘍マーカー）などが用いられる。

４．精巣捻転症（せいそうねんてんしょう）

精巣を吊り下げている精索（神経、血管、精管などが含まれる束）がねじれてしまう状態である。これにより精巣への血流が遮断され、放置すると精巣が壊死してしまう可能性があるため、数時間以内の緊急手術が必要となる、泌尿器科における緊急疾患の一つである。思春期の男性に多く発生するが、新生児期や成人でも起こりうる。非常に特徴的なのは、突然発症する激痛である。痛みは陰嚢だけでなく下腹部や鼠径部にも放散することがある。精索のねじれにより、内部は充実性に近くなり透光性なしとなる。また、精巣を少し挙上させようとすると、痛みがかえって強くなるという特徴的な身体所見が見られることがあり、これをプレーン兆候陽性と呼ぶ。この症状が見られた場合は、一刻も早く医療機関を受診する必要がある。

５．精巣上体炎（せいそうじょうたいえん）

精巣の上部にある精巣上体に、細菌感染などが原因で炎症が起こる疾患である。若年者では性感染症が原因となることもあり、高齢者では尿路感染症に伴って発生することもある。症状としては、陰嚢の片側に激痛を伴う腫れと発赤が出現する。発熱を伴うことも少なくない。炎症により組織が腫れ、内部は充実性となるため透光性なしとなる。精巣捻転症と同様に激痛を伴うが、精巣上体炎では、精巣（精巣上体）を挙上させると痛みが軽減するという特徴的な身体所見が見られることがあり、これをプレーン兆候陰性と呼ぶ。精巣捻転症との鑑別が重要であり、診断には問診、触診、尿検査、超音波検査などが行われる。治療は抗菌薬による薬物療法が中心となる。

診断と受診の重要性

陰嚢腫大は、上記のように緊急性の高い疾患（精巣捻転症）から、悪性腫瘍（精巣腫瘍）、比較的良性の疾患（精液瘤、陰嚢水腫、精巣上体炎）まで、様々な原因で発生しうる。痛みの有無、発症の仕方（突然か、徐々にか）、触感、そして光の透過性（透光性）や、身体所見（プレーン兆候など）が、これらの疾患を鑑別する上で重要な手がかりとなる。

自己判断は危険であり、陰嚢の腫れやしこりを自覚した場合には、必ず泌尿器科などの専門医を受診し、適切な診断と治療を受けることが肝要である。特に突然の激痛や硬いしこりが見られる場合は、速やかな受診が求められる。専門医は、問診や身体診察に加え、超音波検査などの画像検査を用いて、陰嚢腫大の原因を特定する。

このように、陰嚢腫大は多様な原因によって引き起こされる症状であり、その背景にある疾患を正確に把握することが、適切な治療につながり、将来的な健康を守る上で極めて重要となるのである。

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