陰間茶屋

江戸時代の特殊飲食店「陰間茶屋」：美少年と男色の文化

江戸時代中期、元禄年間（1688-1704年）頃、独特の文化が花開いた場所がありました。それが「陰間茶屋」です。一般的な遊郭とは異なり、陰間茶屋は若衆と呼ばれる美少年が中心となり、男性客に性的サービスを提供する飲食店でした。上方では「若衆茶屋」や「若衆宿」と呼ばれ、その存在は江戸の風俗史において特異な位置を占めています。

陰間の起源と役割

「陰間」という呼び名は、歌舞伎における女形（女役）の修行中の少年を指す言葉から派生したと考えられています。舞台に立つことがない、いわば「陰」の存在だった彼らの中には、男性客との性的関係を持つ者がいました。これは、女形としての修行の一環、あるいは特別な才能と捉えられていたようです。しかし、陰間茶屋で働く者は必ずしも女形を目指していたわけではなく、「女装」をしないまま男性客にサービスを提供する者も多数いました。

当初、陰間茶屋は芝居小屋と併設されるケースが多かったとされます。しかし、次第に男色を目的とした独立した店が増えていき、独自の商業形態を確立していったのです。

繁栄と集積地

売色衆道は室町時代後期から存在したとされますが、江戸時代に広く流行し社会に定着しました。江戸において陰間茶屋が集中していた場所は、いくつかの地域に点在していました。東叡山喜見院の管轄で、多くの僧侶が居住し女色を禁じられていた本郷湯島天神門前町、芝居小屋が多く集まっていた日本橋芳町（葭町）などがその代表例です。上方では宮川町（京都）、道頓堀（大坂）が有名でした。特に江戸では、上方から来た若衆が洗練された物腰で人気を博したと伝えられています。こうした文化は地方にも広がり、東海道の興津清見寺門前では膏薬屋を兼ねた陰間茶屋が軒を連ねていたという記録も残っています。

高額な料金と顧客層

陰間茶屋の料金は非常に高額でした。庶民の手の届くものではなく、裕福な層が利用する高級なサービスだったのです。平賀源内が著した『江戸男色細見-菊の園-』、『男色評判記-男色品定-』といった男色案内書によれば、2時間程度のサービスで現在の5～10万円に相当する金額が支払われていたと推測されます。一日買い切りや外出を伴うサービスになると、さらに高額な料金を支払う必要がありました。

主な顧客は、金銭的に余裕のある武家、商人、僧侶に加え、御殿女中や富裕な商家の後家（未亡人）なども含まれていたと考えられます。

衰退と禁止

幕府による天保の改革に伴い、風紀の取り締まりが強化されました。その結果、天保13年（1842年）、陰間茶屋は禁止され、その歴史に幕を閉じました。

江戸における陰間茶屋の主な所在地と軒数

用語解説

陰間（かげま）： 売春を行う若衆。
陰子（かげこ）： まだ舞台を踏んでいない修行中の少年俳優。密かに男色を売ることもあった。

関連事項

衆道
ショタコン


陰間茶屋は、江戸時代の特殊な性風俗の形態として、当時の社会構造や人々の生活、文化を理解する上で重要な視点を提供する存在でした。その存在は、現代の倫理観からは批判される可能性もありますが、歴史的事実として捉え、多角的に考察していくことが重要です。

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