陳橋の変

陳橋の変

陳橋の変は、960年に後周の領土である陳橋（現在の河南省封丘県）で発生したクーデターです。この事件によって後周は滅亡し、宋が新たに建国されました。

概要

959年、五代屈指の名君として知られる後周の世宗・柴栄が急逝し、わずか7歳の皇太子・柴宗訓が帝位を継承しました（恭帝）。しかし、幼い皇帝を君主として戴くことへの不安が軍部を中心に広がり、一部からは成年の有力な皇帝を擁立すべきだという声も上がり始めました。

960年、北方の大国・遼が大規模な軍勢を率いて侵攻してきたという情報が後周の朝廷にもたらされました。朝廷は、殿前都点検（禁軍の長官）・趙匡胤を国防の総司令官に任命し、遼軍への対処を委ねました。趙匡胤が軍を率いて陳橋に到着し、深酒をして夜に熟睡していたところ、かねてから幼い皇帝を主君とすることに不満を抱いていた軍人たちが、趙匡胤の弟・趙匡義を仲間に引き入れ、趙匡胤に首都の開封に戻って皇帝になるよう求めました。

趙匡胤「お前たちは本気で言っているのか？」

趙匡義「もちろんです。このような重大事を冗談で申し上げるはずがございません。」

趙匡胤「もし私が拒否したらどうなる？」

趙匡義「兄上の命を頂戴した後、我々も自刃して果てる覚悟です。」

趙匡胤「皆がそこまで言うのならば、やむを得ない。私が皇帝になろう。」

こうして、趙匡胤は部下が用意した黄袍（皇帝の着る黄色い衣）を身にまといました。彼は将兵に皇帝として開封に戻ることを告げ、略奪などの蛮行を禁じました。翌朝、開封に入城すると、恭帝から禅譲を受け、正式に皇帝に即位しました。これが北宋の太祖です（趙匡義は後に第2代皇帝・太宗となります）。

事件の背景と真相

しかし、この事件は事前に周到に計画されたものであったという説があります。李卓吾は「黄袍はどこで売っていたのか？」と指摘しています。皇帝専用の衣服が市販されているはずがなく、事前にクーデターで使用するために特注する以外にありえません。実際、この時遼が軍を動かしたという事実はなく、黄袍もあらかじめ用意されたものでした。また、趙匡胤が即位に際して読み上げた文章を起草した役人は、体裁を気にする趙匡胤によって、生涯出世を許されなかったと言われています。

趙匡胤は後に、配下の節度使たちの軍権を剥奪しようとした際に、この陳橋の変を持ち出し、「あなた方に謀反の気がなくとも、部下に黄袍を着せられたらどうすることもできないだろう」と言い、軍権を返上して引退することが身の安全を守る道だと諭したと伝えられています。

陳橋の変は、宋王朝の成立を決定づけただけでなく、その後の中国の政治体制にも大きな影響を与えた事件として、歴史に深く刻まれています。

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