柴栄

柴栄（世宗）

柴栄（さい えい）は、五代十国時代の後周の第2代皇帝であり、廟号は世宗（せいそう）です。五代随一の名君とされ、後周の全盛期を築き上げましたが、39歳という若さで亡くなりました。

生涯

即位まで

柴栄の父である柴守礼（さい しゅれい）は、郭威（かく い、太祖）の妻である柴氏（さいし）の兄にあたります。柴氏は郭威と同郷であり、郭威が皇帝になる前から内助の功を発揮し、その覇業を支えました。しかし、柴氏は郭威の即位前に亡くなり、郭威は彼女を偲んで皇后を追贈しました。

柴栄は幼い頃から叔母の嫁ぎ先である郭威の家で育ち、後に郭威の養子となりました。郭威が権力を確立していく過程で柴栄も貢献し、郭威が後漢の枢密使・天雄軍節度使となると、柴栄もその下で天雄軍牙軍の総指揮官として活躍しました。

郭威が後漢に対してクーデターを起こし開封へ侵攻した際、柴栄は根拠地である魏州（ぎしゅう）の防衛を任されました。郭威が皇帝として後周を建国すると、柴栄は澶州（せんしゅう）節度使に任命されました。

郭威の一族は後漢の隠帝によって殺害されており、954年に郭威が崩御すると、柴栄が後継者に指名され、後周の第2代皇帝として即位しました。

国内改革

世宗（柴栄）が即位すると、郭威の死に乗じて北漢（ほくかん）が契丹（きったん）の援軍を得て侵攻してきました。両軍は沢州高平（たくしゅうこうへい）の巴公原（はこうげん）で激突し、序盤で自軍の一部が北漢に降伏し窮地に陥りましたが、世宗自らが矢石を冒して督戦し、将軍趙匡胤（ちょうきょういん）の奮戦もあって北漢軍を撃破し、逆に北漢の首都である太原（たいげん）を包囲しました。しかし、北漢を滅ぼすには至らず、途中で軍を退却させました。

当時の節度使（せつどし）は、強大な軍事力と支配地に対する行政・財政権を兼ね備えており、軍閥化して独立・割拠する傾向が強く、五代を通じて戦乱の大きな原因となっていました。また、後唐（こうとう）の明宗（めいそう）の時代に禁軍（きんぐん）として侍衛司（じえいし）が整備されていましたが、歴代の皇帝がこれを優遇しすぎたため、恩賞が約束されないと戦わないという驕兵（きょうへい）と化しており、再編成のための老兵の解雇さえ困難でした。

そこで柴栄は、新たに殿前軍（でんぜんぐん）を編成し、節度使の配下から優秀な兵士を引き抜いて殿前軍に組み込み、その指揮権を皇帝のみが持つようにしました。これにより、節度使の弱体化と禁軍の強化、そして皇帝権力の強化を達成しました。

また、柴栄は廃仏令（はいぶつれい）を出し、仏教勢力の力を弱めました。仏教側からは法難（ほうなん）と非難されましたが、これまでの廃仏とは異なり、道教側からの示唆や介入はなく、純粋に経済・国家統制上の観点から、税・兵役忌避を目的とした出家や寺院への資産流出の防止、仏教勢力からの権益獲得を目的としたものでした。これによって増えた税収と没収財産は、後周軍の軍事再編成の費用に充当されました。

さらに、柴栄は当時の貨幣である銅貨を鋳造するため、銅の私有を禁じる法令を出しました。貨幣経済の発達と、五代十国の分裂による銅生産地との断絶によって銅が不足していたためです。また、廃仏令の一環として銅製の仏像を没収し、これも銅貨に鋳造し直しました。

加えて、柴栄は郭威以来の方針を受け継ぎ、租税の軽減や農村の復興に努めました。また、「大周刑統（だいしゅうけいとう）」という国法を定めました。

統一事業

これらの改革によって国力を蓄えた柴栄は、唐滅亡以来の統一を目指し、積極的に領土拡大に乗り出しました。

955年、柴栄はまず四川（しせん）の後蜀（こうしょく）を攻め、秦州（しんしゅう）をはじめとする4州を奪いました。

さらに同年冬からは、十国の中で最強国であった南唐（なんとう）に侵攻しました。当時の南唐は経済力のある大国であり、後周にとっても手ごわい相手でした。南唐軍は後周軍の攻撃に激しく抵抗し、3年ほど戦いが続きましたが、958年に君主の李璟（り けい）がついに降伏しました。柴栄は和睦の条件として、南唐の長江以北の領土の割譲や、後周に対して南唐は皇帝号を廃止し「国主」と名乗ることなどを取り決めました。

淮河（わいが）から長江（ちょうこう）に至る地域は、中国最大の塩の産地であり、南唐の経済力はこの塩の産地によって支えられていました。後周軍によるこの地の占領は、南唐の生殺与奪権を握ったことと同義でした。以後、南唐では自国内で塩の供給を賄うことができず、後周から毎年30万石（約17,800キロリットル）の援助を受けるようになりました。

南唐を抑えた柴栄は、次に軍事的に最強の敵である北の契丹とその衛星国である北漢を攻めました。959年、柴栄は燕雲十六州（えんうんじゅうろくしゅう）のうち、南寄りの莫州（ばくしゅう）・瀛州（えいしゅう）と寧州（ねいしゅう）、瓦橋関（がきょうかん）、益津関（えきしんかん）、淤口関（おこうかん）の3州3関を奪取しました。

柴栄はさらに軍を北上させ幽州（ゆうしゅう）へと進軍しましたが、陣中で病に倒れ開封（かいほう）へ引き返しました。そして間もなく、39歳という若さで亡くなりました。

死後

柴栄の後を継いで皇帝に即位したのは、当時わずか7歳の息子である柴宗訓（さい そうくん）でした。しかし、五代の先例に漏れず、すぐに軍内の兵士たちによる実力者擁立の動きが出てきました。その中心となったのが、柴栄に最も信頼された殿前都点検（でんぜんとてんけん）の趙匡胤（ちょう きょういん）です。軍部の支持を受けた趙匡胤は、柴宗訓から禅譲を受け、北宋（ほくそう）を建国しました（陳橋の変）。

殺伐とした戦乱の時代である五代十国時代では、前王朝の皇帝は殺されるのが通例でしたが、柴宗訓は手厚く保護され、柴氏は南宋の滅亡まで約320年間、勅命により優遇されました。

子女

男子
越王 柴宗誼（えつおう さいそうぎ、北漢によって殺害された）
柴宗誠（さいそうせい、早世のため不詳）
柴宗諴（さいそうかん、早世のため不詳）
梁王 柴宗訓（りょうおう さいそうくん、恭帝）
曹王 柴熙譲（そうおう さいきじょう）
紀王 柴熙謹（きおう さいききん）
蘄王 柴熙誨（ぎおう さいきかい）

元号

* 顕徳（けんとく、954年 - 960年）

もう一度検索