陳真 (キャラクター)

陳真：映画が生んだ伝説のヒーロー

陳真（チェン・ジェン）は、1972年公開の香港映画『ドラゴン怒りの鉄拳』でブルース・リーが演じた主人公であり、中国武術の精神を象徴するキャラクターとして広く知られています。彼は、清朝末期に実在した武術家、霍元甲（かく げんこう）の弟子という設定ですが、実際には映画の脚本を担当した倪匡（ニー・クァン）によって創作された架空の人物です。しかし、その強烈なキャラクターと物語は、カンフー映画の歴史において不朽のヒーロー像を確立し、後の多くの作品に影響を与えました。

物語の背景

物語の舞台は、日本軍国主義が中国を侵略していた民国時代です。陳真は、精武門（上海精武体育会）を創立した霍元甲の弟子として登場します。彼は師の突然の死に疑問を抱き、その死因を究明しようとします。調査の結果、師が日本人の策略によって殺害されたことを知った陳真は、復讐を誓い、単身で日本道場である「虹口道場」に乗り込み、仇討ちを果たすという展開です。この壮絶な復讐劇は、観客に大きな感動を与えました。物語のクライマックスでは、精武門を閉鎖しない代わりに自首すると約束した陳真が、精武門で待ち構える列強軍や警官隊に対し、決死の飛び蹴りをみせ、銃弾に倒れるという衝撃的なラストシーンを迎えます。

創作されたキャラクター

陳真は、師である霍元甲が実在の人物であるため、実在の人物と誤解されがちですが、実際には倪匡が創作したキャラクターです。倪匡は、資料を調べていた際に、訃報記事で弟子の名前として「陳真」という名前を見つけたそうです。映画制作当時、監督のロー・ウェイ（羅維）とブルース・リーは、霍元甲の精武精神を受け継ぐ作品を作ろうと考え、倪匡が霍元甲の弟子である劉振聲などをモデルに、ブルース・リーにあててオリジナルのキャラクターとして書き上げたのです。オリジナルでは、霍元甲の死後から物語が始まり、師は遺影でのみ登場します。

多様な展開

1981年には、香港でテレビドラマ『大俠霍元甲』が制作され、ブルース・リーの映画では描かれなかった精武門で修行する陳真の姿が描かれました。陳真役は、カンフー俳優のブルース・リャンが演じました。このドラマは香港や中国大陸で大ヒットし、続編の『陳真』も制作されました。その後、ドラマでは、前編で霍元甲の物語、後編で陳真の物語を描くという2部構成が確立しました。また、ジェット・リー主演の映画『フィスト・オブ・レジェンド』では、京都大学に留学している学生という設定で陳真が登場し、ドニー・イェン主演のテレビドラマ『精武門』では、農村育ちで文盲の青年という設定でした。このように、師が霍元甲であり敵が日本人という基本的な設定は共通しているものの、性格、設定、人間関係、生死などは作品によって異なっています。中には後日談を描いた作品もあり、その場合は陳真は死んでいないという前提で物語が展開します。

陳真の普遍的な魅力

ドニー・イェンは、幼少期からブルース・リーのファンであり、この役を二度演じました。2度目の『レジェンド・オブ・フィスト 怒りの鉄拳』のプレミアで、彼は「陳真のイメージはブルース・リーが形作った」と語り、自身も彼をリスペクトしているため、白い中山服やヌンチャク、“中国人不是東亜病夫”というセリフは外せなかったと語りました。作品ごとに異なる設定で登場しても、陳真が霍元甲の5番目の弟子であるという点は共通しており、兄弟子たちは彼を「五師弟」、弟弟子たちは「五師兄」と呼びます。中国語圏では「五師弟」と言えば、陳真を意味する言葉として認識されています。

象徴的なシーン

1972年のオリジナル作品『ドラゴン怒りの鉄拳』では、恩師・霍元甲の葬儀の場で「東亜病夫」と書かれた看板を持った日本人が弟子や弔問客を侮辱するシーンがあります。そして、師の死の真相を知った陳真が、単身で日本道場に乗り込み、大勢の日本人を打ち負かし、看板を突き返す場面は、非常に印象的で、その後の作品でも繰り返し登場する象徴的なシーンとなっています。

陳真は、ブルース・リーの強烈なカリスマ性と、復讐に燃えるヒーローというドラマチックな設定によって、多くの人々の心に刻まれるキャラクターとなりました。その後の作品では、様々な俳優によって演じられ、異なる解釈が加えられていますが、正義を貫く強い意志を持つヒーローという根本的な魅力は、普遍的なものとして受け継がれています。

陳真を演じた主な俳優

※全ての作品ではなく、制作された主なものとして

ブルース・リー
ブルース・リャン
ジェット・リー
ドニー・イェン

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