陶宗儀

陶宗儀（とう そうぎ）は、元末から明初の時代に活躍した学者であり、文人としても知られています。字（あざな）は九成（きゅうせい）といい、彼の生涯は、友人の孫作による伝記によって伝えられています。

生涯

陶宗儀は、台州黄巌県清陽の出身です。若い頃に科挙の試験に合格できなかったため、官吏の道には進まず、学問に専念しました。その後、松江（現在の上海市松江区の東北に位置する泗涇鎮）に隠棲し、「南村」と号しました。彼は農耕に従事する傍ら、その余暇を利用して随筆を執筆し、それが彼の代表作である『輟耕録（てっこうろく）』となりました。

陶宗儀の正確な生没年は不明ですが、建文年間（1399年 - 1402年）の初めにはまだ存命であったとされています。彼の生涯は、官界での活躍ではなく、学問と著作活動に捧げられたものでした。

主要な著作

陶宗儀は、多くの著作を残しており、その中でも特に重要なものは以下の通りです。

『輟耕録（てっこうろく）』
陶宗儀の代表作であり、30巻からなる随筆集です。農耕の合間に書き綴られたもので、当時の社会や文化、風俗に関する様々な記述が含まれています。彼の視点から見た時代背景が理解できる貴重な資料となっています。
『書史会要（しょしかいよう）』
元代までの書家の伝記を集めたもので、全9巻から構成されています。書家の伝記だけでなく、巻8には中国以外の様々な文字についての記述があり、日本の仮名とその発音についても触れられています。これは、当時の中国における国際的な文字文化への関心を示すものとして注目されます。
『説郛（せつふ）』
様々な漢籍を集めた叢書で、全100巻という大規模なものです。この叢書は、当時の貴重な文献を後世に伝える上で重要な役割を果たしました。
『南村詩集（なんそんししゅう）』
陶宗儀の詩を集めたもので、全4巻から構成されています。彼の詩は、隠遁生活の中で得た自然や人生観が反映されており、文学的な価値も高いと評価されています。



陶宗儀は、科挙の道を選ばなかったものの、その学識と文才によって後世に名を残しました。彼の著作は、当時の社会や文化を知る上で欠かせない資料であり、現在でも多くの研究者によって参照されています。特に『輟耕録』は、彼の独特な視点と観察眼を通して、元末から明初にかけての社会情勢や人々の生活を知る上で重要な手がかりとなっています。

参考文献

* 『明史』巻285・文苑一・陶宗儀

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