陸上自衛隊のC4Iシステム

陸上自衛隊のC4Iシステム

陸上自衛隊（陸自）が運用するC4I（指揮、統制、通信、コンピュータ、情報）システムは、作戦遂行において不可欠な情報通信基盤です。これらのシステムは、指揮系統、業務遂行、通信インフラの3つの主要な要素で構成され、陸自の活動を支えています。

システムの構成

陸上自衛隊のC4Iシステムは、大きく分けて以下の3つに分類されます。

1. 指揮系システム（作戦系システム）: 作戦指揮を支援するシステム。
2. 業務系システム: 後方支援業務を担うシステム。
3. 通信インフラ系システム: 情報伝達を支える通信基盤。

指揮系システムは、さらに固定型システムと野外型システムに分けられます。固定型システムは主に駐屯地で使用され、野外型システムは作戦地域で機動的に運用されます。

指揮系システム

固定型システム

陸自指揮システムは、陸上自衛隊の基幹となる戦略・作戦級C4Iシステムです。1993年から運用が開始され、共通作戦状況図（COP）を提供します。当初は、陸幕システム、方面隊指揮システム、師団等指揮システムの3つに分類されていましたが、2018年に陸上総隊が創設された際に、これらの区分は整理・統合されました。現在は陸自指揮システムと陸自指揮システム（指揮管理通信機能）に再編されています。

陸自指揮システムは、AP2000アーキテクチャを採用しており、このアーキテクチャは後に防衛省共通運用基盤（COE）にも採用され、自衛隊のC4Iシステムの相互運用性の向上に貢献しました。

陸自クローズ系クラウドシステム

近年、固定型システムはクラウド化が進められており、2019年度末から陸自クローズ系クラウドシステム（通称：正蒼院）が運用を開始しました。これにより、システムごとのサーバーが統合され、情報の処理能力が向上しました。正蒼院には、以下のシステムが収容され、各サービスが提供されています。

陸自指揮システム（指揮統制サービス）：各級指揮官の指揮統制を支援
指揮管理通信機能（指揮統制サービス）：駐屯地間の通信業務、監視・統制機能を提供
陸自情報支援システム（情報支援サービス）：情報収集・共有機能を提供
戦術教育システム（指揮統制サービス）：コンピュータを使用した戦術訓練を支援
システム運用教育用システム（指揮統制サービス）：陸自指揮システムの模擬機能を提供
弾薬類システム（弾薬類サービス）：弾薬の補給・兵站管理を支援
陸自業務システム（兵站現状把握サービス）：兵站情報を表示
運用解析装置（運用解析サービス）：運用解析実務を支援
指揮所訓練統裁支援システム（指揮所訓練統裁支援サービス）：指揮所訓練を支援
飛行管理システム（飛行管理サービス）：飛行任務を支援
地理情報システム（地理情報サービス）：地理情報を取り扱い
電磁波管理機能（電磁波管理サービス）：周波数管理、電磁波解析を提供

正蒼院は、人工知能（AI）を導入することで、情報提供の精度をさらに高める予定です。2024年度から2028年度にかけて、以下の機能が追加されます。

自然言語処理
指揮統制画像類識別
最適配置計画
地域見積支援
情報融合
OSINT分析
動態分析
最適周波数配当
AAR分析支援
命令入力省人化
補給管理（輸送AI）
UAV画像類識別
動的目標同一化
最適火力選定
意思決定迅速化
地図作成支援

クラウド化により、正蒼院は野外型システムへのサービス提供も可能となり、2021年にはLTE環境下での野外端末運用も実現しています。

野外型システム

野外型システムは、各方面隊、師団、旅団が戦場で機動的に運用する戦術級C4Iシステムです。

指揮システム

師団等指揮システム（FiCS）: 師団・旅団司令部で使用され、指揮官の意思決定を支援します。大型モニターにクロノロジーや状況図を表示します。陸自指揮システムの一部でCOPも提供します。
MOSSサーバー: 即応機動連隊に配備され、陸自指揮システム等の指揮統制システムを搭載し、COP・CIPを提供します。
基幹連隊指揮統制システム（ReCS）: 普通科連隊、戦車連隊で使用されるシステムで、可搬型として開発されました。部隊の指揮統制・戦術情報の共有を目的とし、携帯端末にはGPS機能があります。しかし、2013年の実験では通信速度の遅さが指摘されましたが、現在は広帯域多目的無線機への搭載が進んでいます。
10式戦車ネットワーク（10NW): 10式戦車に搭載され、戦車間でのリアルタイムな指揮統制・情報共有・射撃指揮を可能にします。

野戦特科部隊用システム

野戦特科情報処理システム（FADS）/野戦特科射撃指揮装置（FADAC）: 野戦特科部隊で使用されるC2システム。
火力戦闘指揮統制システム（FCCS）: FADS・FADACの後継として、目標情報の収集・処理を行い、火力戦闘の指揮統制を支援します。

高射特科部隊用システム

対空戦闘指揮装置/師団対空情報処理システム: 高射特科部隊で使用されるC2システム。
対空戦闘指揮統制システム（ADCCS): 対空レーダ等の情報を集約し、対空戦闘の指揮統制を支援します。方面隊用I型、師団用II型、旅団用III型があります。

将来の陸上自衛隊C4Iシステム（平導院）

2020年度からは、将来の陸上自衛隊C4Iシステム（平導院）の整備が進められています。このシステムは、各C4Iシステム間の連携を強化し、各種センサーや兵器体系の標準化、指揮通信基盤の充実、インターフェースの共通化を目指しています。

平導院は、FiCS、FCCS、ADCCS、野外通信システムを改修し、陸自SNMS（システムネットワーク管理システム）で構成されます。また、正蒼院、アプリケーション基盤、陸自SNMS、共通データベース、陸自ネットワークを基盤とし、「共通アプリ」「対空アプリ」「火力アプリ」「近接アプリ」を通じて各種サービスを提供します。

共通サービス: 敵情、位置情報、気象情報などを提供します。
火力戦闘サービス: 火力戦闘の指揮統制を支援します。
対空戦闘サービス: 対空戦闘の指揮統制を支援します。
近接戦闘サービス: 近接戦闘の指揮統制を支援します。

陸自SNMSは、固定系から野外系までのシステムを一元的に管理し、民間ネットワークを含むあらゆるネットワーク手段を活用することで、業務の高速化、セキュリティ確保、維持管理費用の削減を目指します。

さらに、普通科隊員向けには、スマートフォン型の携帯端末と無線機を装備し、FiCSと連携させる「分隊内情報共有装置」の研究が行われています。これにより、位置表示機能、警告・指示機能、作画・火力要求・バイタル情報機能が提供される予定です。

業務系システム

後方支援業務を担う業務系システムは、陸自補給管理システムとして標準化され、2017年度・2018年度には陸自業務システムとして統合・クラウド化されました。一部機能は正蒼院に収容されています。

通信インフラ系システム

固定型システムの基盤となる通信システムは、防衛情報通信基盤（DII）が使用されています。野外型通信システムは、以下のシステムが運用されています。

方面隊電子交換システム（AESS）/師団通信システム（DICS）: 野外通信システム導入以前の基盤となるシステム。DICSはFiCSやReCSを相互接続します。
野外通信システム: AESSとDICSの後継として開発され、広帯域多目的無線機への機能付加が進められています。
* 衛星通信: 陸幕・方面隊レベルでは統制局装置、方面隊・師団・旅団レベルでは可搬局装置、連隊・群では携帯局装置が使用されます。衛星幹線通信システムとしてJGBY-B1、JPRC-B1、JMBY-B1、GGBY-4が配備されています。

これらの他に、民間LTEや陸自プライベートLTEを含めた陸自ネットワークが構築されています。

まとめ

陸上自衛隊のC4Iシステムは、作戦遂行において不可欠な情報通信基盤であり、常に進化を続けています。固定型システムから野外型システムまで、様々なシステムが相互に連携し、情報共有の効率化、指揮統制の迅速化、そして部隊の能力向上に貢献しています。今後も技術革新を取り入れ、更なるシステムの強化が期待されます。

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