陸游

陸游（りく ゆう）

陸游（1125年 - 1210年）は、南宋時代の政治家であり、詩人としても名を残しました。字は務観（むかん）、号は放翁（ほうおう）といい、「陸放翁」の名で広く知られています。范成大、尤袤、楊万里と共に南宋四大家の一人に数えられ、特に范成大とは「范陸」と並び称されました。現存する詩は約9200首にも及び、中国の詩人の中でも屈指の多作ぶりです。

生涯

越州山陰県（現在の浙江省紹興市柯橋区）に生まれた陸游は、幼少の頃から父の友人たちが語る主戦論を聞いて育ち、強い愛国心と対金強硬論を抱くようになりました。

20歳で結婚した唐琬（とうえん）とは深く愛し合っていましたが、2人の結婚後に不幸が続いたことから、母親の勧めで離婚。後に2人は沈園（しんえん）で偶然再会し、互いの境遇を嘆き悲しんだ際に交わした詞「釵頭鳳（さいとうほう）」は、今もなお語り継がれています。陸游の唐琬への想いは深く、後年にも彼女を偲ぶ詩を数多く残しています。

29歳の時、科挙の予備試験である解試に首席で合格するも、権力者の妨害により中央試験である省試で不合格とされました。これにより、官僚としての出世の道は閉ざされることになります。

秦檜の死後、34歳で初めて官職に就き、孝宗の即位後には進士の資格を授けられました。しかし、積極的な主戦論が災いし、地方への転任を余儀なくされます。その後、一時帰郷して隠遁生活を送りますが、夔州通判（きしゅうつうはん）に任命され、再び官界へ。

四川宣撫使（せんぶし）の王炎（おうえん）に招かれ、対金政策に奔走しますが、中央の講和論が強まると失脚。蜀州通判（しょくしゅうつうはん）、嘉州通判（かしゅうつうはん）と転々とします。范成大（はんせいだい）との交流も深めますが、その奔放な態度が批判を浴び、辞職。この頃に「放翁」の号を用い、成都で隠棲生活を送りました。

その後、孝宗に召還されますが重用されることはなく、地方官を歴任。大規模な洪水の際には、私財を投じて住民を救済しますが、その責任を問われ免職。再び故郷に戻り、隠棲生活を送ることになります。現存する陸游の詩の多くは、この時期に作られたものです。

晩年は、韓侂冑（かんたくちゅう）の推薦により官職に復帰し、「孝宗実録」「光宗実録」の編纂に携わります。故郷では、庶民と分け隔てなく交流し、慕われながら、86歳でその生涯を閉じました。

詩と文学

陸游の詩風は、江西詩派の影響を受け、典故を多用した技巧的なものでしたが、蜀での生活や対金情勢の変化を経て、憂国の情を込めた壮大なものへと変化しました。隠棲生活を送るようになってからは、愛国心や憂国の志を詠じつつも、生活の中の機微を繊細な感覚で捉えた詩を数多く残しています。

代表的な著作には、詩集『剣南詩稿（けんなんしこう）』、随筆集『老学庵筆記（ろうがくあんひっき）』、紀行文『入蜀記（にゅうしょくき）』などがあります。

辞世の句「示児（じじ）」は、祖国統一への願いを託した詩として、広く知られています。


死去原知萬事空

但悲不見九州同

王師北定中原日

家祭無忘告乃翁


（死してはすべてのことが空しいと知るが、

ただ悲しいのは、九州の統一を見ることができないことだ。

王師が北を定め中原を平定した日には、

家祭には忘れずに、私（乃翁）に報告してくれ。）

陸游は、その生涯を通して愛国心を貫き、数多くの詩や文学作品を後世に残しました。

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