陽咸二

陽咸二

陽咸二（よう かんじ）は、1898年5月6日に東京で生を受け、1935年9月14日に惜しくも世を去った彫刻家です。大正時代から昭和時代初期という激動の時代に活動し、38歳という短い生涯ながら、日本彫刻史に独自の足跡を残しました。

芸術への道と作風の変遷

彫刻家としての道を歩み始めたのは、1915年に彫刻家・小倉右一郎のもとに弟子入りしてからです。師の指導のもと研鑽を積み、1918年には第12回文部省美術展覧会（文展）に『老婆』を出品し、初めての入選を果たしました。この初期の作品には、対象をありのままに捉えようとする写実的な傾向が見られます。

しかし、その作風はほどなく大きな転換期を迎えます。1922年の第4回帝国美術院展覧会（帝展）に出品した『壮者』は、わずか25歳という若さで特選に輝きました。この作品の頃から、初期の写実とは一線を画し、古代ギリシャ彫刻、特にクラシック期前期の様式美に強い影響を受けた、洗練された様式的な表現へと移行しています。

陽咸二の様式探求はその後も続き、表現は一層強調され、やがて彼独自の揺るぎない個性を確立するに至りました。写実的な描写から離れ、形態の単純化や内面性の表現を追求するそのスタイルは、当時の彫刻界において注目を集めました。

構造社での活動と評価

1926年に設立された彫刻家集団「構造社」は、当時の日本の彫刻界に新たな風を吹き込む存在でした。陽咸二はこの構造社に深い関わりを持ち、設立翌年の1927年には客員として名を連ね、1929年には正式な会員となりました。構造社での活動は、彼自身の芸術を高める上で重要な意味を持ったと考えられます。

帝展においても評価を確立し、1935年6月には無鑑査出品の資格を得るに至ります。これは、その実力と功績が国家レベルの展覧会で高く認められたことを意味します。

多様な活動と早すぎる死

彫刻制作に打ち込む一方で、陽咸二は多方面にわたる活動も行っていました。三田平凡寺が主宰した趣味人たちのユニークな集まり「我楽他宗」にも参加し、「第二十二番 横臥山夜歓寺」と称していました。ここでは特に中国由来の様々な物品を熱心に収集していたといわれ、芸術家としての顔とは異なる、個人的な関心や人間的な一面を垣間見ることができます。

彫刻家としてまさに円熟期を迎えようとしていた矢先の1935年9月14日、陽咸二は38歳という若さで急逝しました。その早すぎる死は、日本の彫刻界にとって大きな損失でした。

主な作品

陽咸二の作品は、現在も美術館に収蔵されており、彼の残した芸術の足跡をたどることができます。主な作品には以下のようなものがあります。

『燈下抱擁像』(石膏、1924年、東京国立近代美術館蔵)
『燈下抱擁像』(ブロンズ、1924年、東京国立近代美術館蔵)
『サロメ』(石膏、1928年、東京国立近代美術館蔵)
『サロメ』(ブロンズ、1928年、東京国立近代美術館蔵)
『朝日カメラメダル』(石膏、1929年、東京国立近代美術館蔵)
『朝日カメラメダル』(ブロンズ、1929年、東京国立近代美術館蔵)
『降誕の釈迦』(ブロンズ、1929年、宇都宮美術館蔵)
『或る休職将軍の顔』(石膏、1929年、東京国立近代美術館蔵)
『或る休職将軍の顔』(ブロンズ、1929年、東京国立近代美術館蔵)
『蝦蟇仙人』(石膏、1931年、東京国立近代美術館蔵)
『蝦蟇仙人』(ブロンズ、1931年、東京国立近代美術館蔵)

後世への影響と再評価

短い生涯ではありましたが、陽咸二が確立した独自の様式は、当時の彫刻表現に多様性をもたらし、後進の芸術家にも影響を与えました。没後もその作品は高く評価され続け、主要な美術館に収蔵されています。

近年では、2023年（令和5年）2月19日から4月16日にかけて宇都宮美術館にて企画展「混ざりあうカタチ」が開催されました。これは、彫刻だけでなく、掛け軸画、版画、表紙絵、さらには折り紙や工作といった多岐にわたる陽咸二の作品を多数展示する、自身にとって初めての大回顧展であり、その多様な才能と功績が改めて広く紹介される機会となりました。

参考文献

斎藤素巌編 『陽咸二作品集』 斎藤素巌、1936年
美術研究所編 『日本美術年鑑』昭和11年版 美術研究所、1936年
斎藤良輔編 『郷土玩具事典』 東京堂出版、1983年
上田正昭ほか編 『日本人名大辞典』 講談社、2001年
キュレイターズ編 『構造社展　昭和初期彫刻の鬼才たち』 キュレイターズ、2005年

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