隅田川花御所染

隅田川花御所染

『隅田川花御所染』（すみだがわはなのごしょぞめ）は、歌舞伎の代表的な演目で、文化11年（1814年）に江戸市村座で初演されました。作者は鶴屋南北であり、物語は隅田川物や清玄桜姫物の要素を取り入れつつ、鏡山物の雰囲気も盛り込みながら展開されます。通称『女清玄』としても知られています。

あらすじ

一番目三建目

物語は、鎌倉六本杉の場から始まります。京の公家である吉田家の子息、松若丸は天下に名を馳せる夢を抱きつつ家を出奔しますが、天狗に連れられて数々の山を巡った末に、鶴岡八幡の境内で引っかかってしまいます。そこで、入間家の家老である平内左衛門と出会い、彼は実は平家の残党であり、鎌倉幕府を呪っている者でした。平内は松若丸に、吉田家の当主の死とそれにまつわる謀略の話を語り、松若を幕府への復讐へと誘い込みます。松若丸は平内と結託し、入間家を襲撃しようと計画します。

次の場面、浅草新清水での花見の場では、松若丸の婚約者である入間家の息女、花子は松若が失踪したことによって出家を決意します。しかし、岩藤は兄の平内左衛門と共に入間家を乗っ取ろうと企み、花子を堕落させる罠を張ります。岩藤は特別な草履を花子に履かせ、心を乱そうとしています。

やがて、松若の変装した常陸之助が現れると、花子は彼に魅せられていきますが、一方で清水平馬之助は花子の目を引こうとします。松若への思いに悩む花子は、出家を果たそうと準備を進めますが、周囲の策略によって彼女の心が揺れ動きます。

一番目四建目

一方、入間館では、北条の上使である義澄と清水平馬之助が訪れ、由緒ある宝を確認します。しかし、岩藤の策略で草履が宝物にすり替えられます。尾上は清玄尼を庇い、岩藤の陰謀を察知しますが、岩藤は彼を殴ります。

尾上は恥辱に耐えきれず自害の道を選ぼうとし、書き置きを用意します。中間の者が通りかかると、尾上の仇敵である岩藤とすれ違い、波乱の兆しを見せます。

一番目五建目

次に登場するのは、辻番屋での出来事です。ここでは、梅若丸と軍助が旅の途中で出会いますが、梅若が思わぬ運命に巻き込まれる様子が描かれます。梅若は、惣太の悪意により命を奪われてしまうのです。これにより、軍助は梅若の仇を討つことを決意します。

二番目序幕

その後、物語は1年後の隅田川へと移ります。梅若丸の塚が築かれ、そこで集まった者たちが念仏を唱えています。その中に、かつて吉田の家に仕えていた軍助があり、彼は梅若の敵を追い求めていました。桜姫が家出し、その行方を追うシーンが描かれます。

解説

『隅田川花御所染』は、単なる悲恋の物語にとどまらず、権力争い、陰謀、愛憎劇といった複雑な要素が絡み合っています。本作は、歌舞伎の演目の中でも「女○○」と呼ばれるスタイルを取り入れ、女性の視点から描かれることによる新たな魅力を持っています。

特に清玄桜姫物がもたらす感情移入は、観客に強い印象を与え、思い切った人物の設定やストーリー展開によって、登場人物たちの運命がどう交わっていくかが見どころです。演じられる役者たちにとっても、重要な役どころが多く、歌舞伎特有の華やかさが際立つ作品となっています。

本作は初演以来、歌舞伎界で何度も再演されており、その中で脚本や演出に改訂が加えられるなど、時代を超えて多くの人に愛され続けています。

もう一度検索