隆円

隆円

平安時代中期に生きた天台宗延暦寺派の僧侶、隆円（りゅうえん）は、天元3年（980年）に生まれ、長和4年（1015年）にわずか36歳でこの世を去りました。彼は小松僧都や普賢院僧都とも称されました。

その出自は非常に高く、当時の権力者であった中関白藤原道隆を父に、そして才女として名高い高階貴子を母に持っています。同母の兄弟姉妹には、内大臣として知られる伊周、中納言の隆家、そして一条天皇の中宮となり、『枕草子』の作者清少納言が仕えた定子、さらに三条天皇の東宮女御となった原子など、名だたる人々がいました。

隆円は、これらの兄弟姉妹と大変仲が良かったと伝えられています。特に姉である中宮定子とは深い絆で結ばれていました。父道隆の死後、伊周・隆家兄弟が失脚して藤原家が没落し、定子も不遇の境遇に置かれた際も、隆円は常にその傍らを離れず、姉を支え続けました。長保2年（1000年）12月、定子が崩御し、その葬送が行われた際には、季節外れの大雪が降り積もる中、隆円は霊柩車に徒歩で従いました。そして、「ふるさとにゆきも帰らで君とともに同じ野辺にてやがて消えなむ」という、姉への深い哀惜の念を込めた歌を残しています。

隆円は正暦4年（993年）6月28日以前に出家し、延暦寺の大僧都実因に師事しました。仏道への進展は早く、正暦5年（994年）11月5日には、わずか15歳にして僧綱の地位である権少僧都に任じられています。これは少年が僧綱に任じられた初めての例として特筆されるべきことです。その後も昇進を続け、寛弘4年（1007年）には権大僧都に至りました。しかし、栄達の途上にあった隆円は、長和4年（1015年）2月4日、36歳という若さで惜しまれながら亡くなりました。

彼はまた、一条天皇の側近を務めた僧侶の一人でもありました。天皇の出家に関わる剃髪の儀式に奉仕し、崩御後の斂葬における納棺も務め、葬送にも最後まで付き従うなど、天皇からの信頼も厚かったことがうかがえます。

隆円の人柄は、清少納言が著した有名な随筆『枕草子』にも描かれており、「僧都の君」として登場します。そこには、書道家として著名な藤原行成の筆跡をどうしても手に入れたくて、清少納言に頭を下げるほど熱心にねだって譲り受けたという逸話が記されています。また、妹の原子が所有していた、父道隆が遺愛したという笛を、自分の愛用の琴と交換しようと持ちかけ、姉定子に「あれは父上の大切な品物なのに」と洒落を交えて優しく諭される場面なども描かれており、どこか憎めない、親しみやすい一面を持っていた人物であったことがうかがえます。

このように、隆円は高貴な血筋に生まれながら仏道に進み、若くして僧綱の地位に就き、一条天皇に近侍しました。また、家族思い、特に姉定子との絆は深く、文学作品にもその人となりが描かれるなど、平安中期の宮廷社会において独自の存在感を示した人物でした。

（注：本稿は歴史的資料に基づき記述していますが、一部の伝記的な解釈は研究者によって異なる場合があります。）

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