高階貴子

高階貴子：栄華と悲劇の生涯を辿った平安時代の歌人

高階貴子（たかしな の きし）は、平安時代を代表する女流歌人の一人です。女房三十六歌仙にも名を連ねる彼女は、その華麗な経歴と悲劇的な最期によって、後世まで語り継がれる存在となりました。

高貴な出自と華麗なる結婚

高階貴子の父は従二位の高階成忠という高官でした。母については詳しい記録が残されていませんが、彼女は幼い頃から和歌や詩文に優れた才能を示し、その才能は『大鏡』などの歴史書にも記されています。

彼女は円融天皇の時代に内侍として宮廷に仕え、その優れた才能は天皇からも高く評価され、殿上の宴にも招かれるほどでした。その後、時の権力者であった関白・藤原道隆と結婚。この結婚は、彼女の人生に大きな転機をもたらします。

道隆との間には、後に内大臣となる藤原伊周、中納言の藤原隆家、僧都の藤原隆円、そして一条天皇の中宮となる藤原定子を含む、三男四女をもうけました。道隆の絶大な権力と、子供たちの出世によって、貴子は平安時代随一の貴族婦人としての地位を築き上げます。夫の関白就任や、娘・定子の立后に伴い、貴子自身も従五位上から正三位へと昇叙され、その栄華は極まったと言えるでしょう。

栄光の裏で影を潜めた陰謀

しかし、この栄華は長くは続きませんでした。道隆の死後、息子の伊周と隆家は、道隆の弟である藤原道長との激しい権力争いに巻き込まれます。その結果、伊周と隆家は「長徳の変」と呼ばれる事件で罪に問われ、左遷・流罪となります。

貴子は、流罪となる息子たちに付き従おうとしましたが、許されませんでした。この出来事が、彼女の身に大きな打撃を与えたことは想像に難くありません。悲嘆に暮れる貴子はまもなく病に倒れ、長徳2年（996年）10月に亡くなりました。享年は40代と推定されています。

貴子の歌とその後世への影響

残念ながら、貴子の私家集は現存していませんが、彼女の作品は『小倉百人一首』にも採録されており、その高い芸術性は現代にも受け継がれています。彼女の歌は、多くの人々の心に響き、恋の喜びや悲しみ、そして人生の儚さを繊細に表現しています。

また、貴子は『古今著聞集』にも登場し、道隆との結婚に反対していた父・成忠が、道隆の将来性を予見して結婚を許したという逸話が残されています。

栄華を極めた後、悲劇的な最期を遂げた高階貴子。彼女の人生は、平安時代の権力闘争の激しさや、女性の立場、そして母としての強い愛情を物語っています。彼女の残した歌は、今もなお人々の心を捉え、平安時代の歴史と文化を伝える貴重な遺産となっています。近年ではNHK大河ドラマ『光る君へ』で取り上げられ、再び注目を集めています。ただし、『新百人一首』への誤った選出など、歴史的事実の解釈には注意が必要です。

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