隣保館

隣保館（りんぽかん）とは

隣保館とは、貧困や差別、教育の遅れ、環境問題といった様々な社会的課題を抱える地域に設置された福祉施設です。この施設は、地域の住民に対して適切な援助を行うために、教育学や法律、社会福祉に関する専門知識を持つ担当者が常駐しています。日本では、社会福祉事業法に基づき、第二種社会福祉事業を行う形で設立されています。海外ではこのような施設は「セツルメント」と呼ばれ、より広範な福祉的支援を指すこともあります。

起源

隣保館の起源は19世紀のイギリスに求められます。1870年代、経済学者であり歴史家、さらに社会改良家であるアーノルド・トインビーがスラム地区の労働者に対する貧困問題を解決するため、制度や環境の改善、教育の普及、意識向上をミッションとしたセツルメント運動を提唱しました。その後、彼の考えを引き継いだサミュエル・バーネットが1884年に世界最初のセツルメント施設「トインビー・ホール」を設立しました。アメリカにおいても、1886年にスタントン・コイトが初のセツルメントを設立し、1889年には女性活動家ジェーン・アダムスによって「ハルハウス」が開設され、これがセツルメント運動のさらなる発展に寄与しました。

日本における隣保館の歴史

日本初の隣保館は1897年に片山潜によって設立された「キングスレー館」と称される施設です。この名称はイギリスのキリスト教社会主義者チャールズ・キングスレーに由来し、東京に位置していました。当初は私的な社会事業としてスタートし、後に国の福祉サービスが整う中で、地域のニーズに応える役割を担うようになりました。1930年代には、東京帝国大学の教授が設立した無料法律相談所も隣保館の一部として活動しました。

現在の隣保館

今日、日本の隣保館は主に同和対策事業と関わりながら、地域住民の生活相談や人権啓発事業に焦点を当てています。多くは地域の自治体によって設置され、同和地区におけるコミュニティセンターとしての役割を果たしています。しかし、一部の地域では「解放会館」と呼ばれるなど、名称にバリエーションがあります。また、これらの施設は地域住民に対して生活上の様々な相談窓口としても機能しています。

課題と変化

近年では、同和対策事業関連の法律が失効し、役割を終えた隣保館が多く見られます。これに伴って、同和地区の枠を越えた幅広い住民を対象にした公共施設への転換が進められ、地域のニーズに合わせた新たなサービスの提供が模索されています。また、隣保館という名称は、部落差別とは関連がない地域でも使われる場合があるため、この用語を使う際には注意が必要です。

まとめ

隣保館は、日本の社会福祉活動の中で重要な役割を果たしてきました。地域に根ざした支援を行うことで、貧困や差別といった問題に立ち向かうとともに、教育や法律相談などさまざまな局面で地域住民の生活をサポートしています。

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