雪形

雪形（ゆきがた）とは

雪形とは、山肌に残る雪と岩肌が作り出す模様を、人がある特定の形に見立てて名付けたものの総称です。多くの場合、その山の名前の由来となっていたり、農作業を始める時期を知るための農事暦として利用されてきました。

雪形の特徴

見られる地域

雪形は、積雪の様子がはっきりと見える山が、人々の生活圏に近い場所にある地域に多く見られます。日本国内で確認されている雪形の数は、新潟県が最も多く、次いで長野県に多く見られます。その他、岐阜県以東の都県で確認されているものがほとんどですが、兵庫県の氷ノ山や愛媛県の石鎚山でも確認されています。

雪形の名前

各地の雪形には、それぞれ固有の名前が付けられています。例えば、常念岳の「常念坊」や、各地の駒ヶ岳に見られる馬の形、蝶ヶ岳の羽根を広げた蝶の雪形など、山の名前の由来となっているものも少なくありません。

一つの山に一つの雪形しかないわけではなく、富士[[山]]や岩木山のように、複数の雪形が同時に見られる山もあります。また、同じ山でも見る角度や時期によって異なる雪形が見られることがあります。

農事暦としての雪形

雪形の多くは、農事暦や自然暦として、田畑の作業や漁を行う時期の目安として利用されてきました。季節の移り変わりとともに雪形は姿を変えていき、その形によって田植えや豆まきなどの時期を判断していました。例えば、吾妻小富士の雪うさぎは、地元では「種まきうさぎ」と呼ばれています。

残雪量は積雪量や気温に左右され、その後の用水の量にも影響を与えるため、雪形は天候や災害の予測、豊凶占いにも用いられました。雪形が早く消えた年は水不足が懸念され、長く残る年は冷害が予想されました。北海道石狩市愛冠岬の「馬雪」は、かつてニシン漁の終わりを告げる暦として漁業者に利用されていました。

現代における雪形

農業技術の進歩や気象観測の発達により、雪形が農事暦としての役割を果たすことは少なくなりました。しかし、雪形は古文化財として、また新しい時代の観光資源として、人々の関心を集めています。

昭和以降、雪形に関心を持つ人が増えるにつれて、新たな雪形も発見されています。登山道などから見える山肌の残雪模様に名前が付けられることもあります。

雪形の分類

雪形には、「ポジ型」と「ネガ型」の2種類があります。

ポジ型: 山肌の窪地に残った雪の形
ネガ型: 雪が解けた山肌が黒く浮かび上がった形

雪形の例

雪形には、農民にとって身近なものがモチーフとして選ばれることが多く、種まきや豆まきをする人、馬、牛、鳥などの動植物、文字、農具などが雪形として見立てられています。

例えば、富士[[山]]には豆まき小僧、農鳥、農牛、お犬雪、農男などの雪形が見られます。白馬岳に見られる馬の形の雪模様は「代馬（しろうま）」と呼ばれ、この雪形が現れると代掻きの時期だとされていました。山の名前もこの「代馬」に由来し、「白馬岳」と名付けられました。

五龍岳の「武田菱」（御菱）は、農事暦としての役割は知られていませんが、その美しい形は誰が見ても分かりやすい雪形です。

「雪形」という言葉について

「雪形」という言葉は、比較的新しい言葉です。信越地方では、雪の模様に名前をつけて暦の代わりにしてきた地域が多く存在しますが、それらを総称する言葉は昭和以前には特にありませんでした。

柳田國男は『山村語彙』（1932-1936年）で、雪の描く形について触れています。1938年には岩科小一郎が「残雪絵考」を山岳雑誌に発表し、「残雪絵」という呼び方の代わりに「雪形」という言葉を考案しました。

日本画家の中村清太郎が1954年に新聞紙上で「白馬岳の代馬」を取り上げたことから、一般にも「雪形」という言葉が広まっていきました。

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