雫石・橋場口の戦い

雫石・橋場口の戦い（1868年）

雫石・橋場口の戦いは、戊辰戦争（秋田戦争）の一部として、慶応4年（1868年）9月28日に現在の岩手県雫石町橋場付近で発生しました。盛岡藩領に新政府軍が侵攻したことがきっかけとなり、激しい戦闘が繰り広げられました。

戦いの背景

戊辰戦争において、盛岡藩は奥羽越列藩同盟に加担し、新政府軍と対立していました。同年8月28日の生保内口の戦いで盛岡藩兵は敗北し、久保田藩領から撤退を余儀なくされます。9月21日、盛岡藩は降伏を決意し、その旨が各警備隊に伝えられました。

しかし、奥羽鎮撫隊総督府は盛岡藩の降伏を不確実と判断し、庄内討伐軍の一部を盛岡へ転進させます。石田英吉率いる長崎振遠隊を先鋒に、島原藩兵、秋田藩兵らが国見峠を越え、雫石を突破して盛岡城に迫る作戦を立てました。

戦闘の経過

橋場に駐留していた盛岡藩兵は、降伏の知らせを受けて警戒を緩めていました。9月28日早暁、新政府軍は降りしきる秋雨の中、橋場に奇襲をかけます。太平の見張り小屋にいた盛岡藩兵は不意を突かれ、多くが逃亡。板場の平右衛門が照井多助隊長に急を知らせ、照井隊は峠へ向かいます。

坂本川付近で振遠隊と衝突した照井隊は、攻撃中止を要請しますが聞き入れられず、銃撃戦となります。照井隊長は敵将（久保田藩の三輪俊之助）に一騎打ちを挑みましたが、組み打ちの末に討たれてしまいます。

秋田側の別動隊は茂りの台場や水谷地の陣屋を攻撃し、南部側は防戦できずに敗走。一の渡りの陣屋も突破され、南部軍は橋場へ撤退します。長崎振遠隊の本隊も到着し、橋場村で激しい市街戦が展開されました。新政府軍は兵を三方に分け、さらに一部を背後に回り込ませることで、南部軍を四方から攻撃。南部軍は村に火を放って雫石方面へ敗走しました。

敗走する盛岡兵の中に、マタギの与吉という者がいました。与吉は集落が焼ける煙の中、三柱神社の方へ進み、明神岩の陰から火縄銃で振遠隊の隊長らしき人物を射殺します。味方のマタギが「与吉、うまくやったぞ」と叫び、与吉は山中に逃げ込みました。長崎勢は「ヨギ」という呼び名を頼りに与吉を捜索しましたが、誰も彼の居場所を明かしませんでした。与吉は安栖佐兵衛のもとで生涯を隠れ住み、81歳で亡くなったと伝えられています。

戦いの後

秋田側はこの日、一の渡りに宿陣しました。この戦闘で、振遠隊の斥候長である福田栄之助と嶋原隊の高槻徳之進が戦死しました。橋場村では村人5人と南部藩士5人が戦死し、多数の負傷者が出ました。

9月29日、振遠隊はさらに進軍し、安栖や小赤坂に砲撃を加えます。盛岡の本陣からは降伏の使者が送られ、春木場の西馳せ下りに白旗を掲げて休戦を申し入れました。同日、雫石警備隊長の沢田斉と菊池仙助は振遠隊隊長の石田英吉と会見し、官軍に発砲した理由を釈明。三戸式部による謝罪降伏の手続き中であることを伝え、進撃の見合わせを要請します。しかし、官軍はこれを拒否し、雫石まで進軍して盛岡への進撃に備えました。

盛岡藩は家老の毛馬内讃岐と用人の遠山合らを雫石に派遣し、石田英吉や軍監の中尾栄吉郎らと会見。進撃を7日間見合わせる代わりに、10月5日に盛岡城を開城し、銃砲や弾薬などを引き渡すことで合意しました。しかし、実際の開城は5日延期され、10月15日に行われました。振遠隊隊長の石田英吉は秋田藩兵の一部を率いて盛岡に入城し、残りの軍は角館へ引き上げました。

10月8日、雫石本陣に退陣中の和田小太郎隊に、参謀長より通達がありました。それには、10月4日に明神村で「不都合の所行」があったので、取り調べるとありました。取り調べの結果、4人の者は割腹刑の沙汰を受けました。10月16日、雫石の広養寺で検視として要人6人が列席する中、刑が執行されました。石井東、松本亀治の2人が割腹した後、総監府より命令があり、残りの2人は死一等を免ぜられ、両人断髪に刑に処せられることが菅野覚兵衛より宣告されました。

参考文献

『雫石町史』p.669-675
『石ころ』第30号、2010年、北浦史談会、p.21-24

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