振遠隊

振遠隊（しんえんたい）

振遠隊は、明治時代初期に長崎裁判所に所属した官軍部隊です。その前身は、江戸時代末期に長崎の治安維持のために組織された警備隊に遡ります。開国後の長崎には、多くの外国人が居住するようになり、また勤王・佐幕の両派の浪士たちが集結し、治安が悪化していました。この状況に対応するため、長崎奉行は警備隊を結成しました。

隊の結成

長崎港の警備は、江戸時代には佐賀藩と福岡藩が交代で行っていましたが、元治元年（1864年）にこの制度が廃止されました。その結果、長崎奉行は同年8月、治安維持と外国人保護のために警備隊を組織しました。

構成員は、長崎の地役人の次男以下の者、市内に道場を持つ剣客とその門弟、そして浪人などでした。当初は約150人でしたが、徐々に増員され、最終的には約350人に達しました。当初は警衛隊（警備隊）と呼ばれ、長崎奉行の直属部隊として、砲隊は洋装に小銃、平士隊は和装に剣、槍、棒、十手などを装備していました。彼らは、唐人屋敷や浜町付近、西泊、戸町の番所などで勤務しました。慶応3年（1867年）には遊撃隊と改称され、市中警備の任に当たりました。

しかし、慶応4年（1868年）に鳥羽・伏見の戦いで幕府軍が官軍に敗北したことを知った長崎奉行・河津伊豆守祐邦は、1月14日にイギリス船で長崎を脱出し、江戸へ逃亡しました。これにより、遊撃隊は指導者を失いました。奉行の退去後、長崎奉行所西役所には土佐藩の佐々木三四郎や海援隊の者が集結し、遊撃隊との衝突に備えました。一時緊張が高まりましたが、薩摩藩の松方助左衛門が遊撃隊を説得したことで、戦闘は回避されました。また、長崎の町年寄や各藩の聞役たちは、朝廷から責任者が派遣されるまで、長崎の地役人や駐留藩の人間が協力して、これまで通りに業務を執り行うことを決めました。

慶応4年（1868年）2月15日、九州鎮撫総督の澤宣嘉が長崎に下向し、長崎裁判所が設置され、奉行所の業務を引き継ぎました。これに伴い、遊撃隊は明治元年4月19日に振遠隊と改称し、長崎裁判所の所属となりました。隊長には、元海援隊士の石田栄吉が任命され、同じく海援隊からは、野村要助、大山壮太朗、菅野覚兵衛、山本洪堂らが幹部として参加しました。

振遠隊の遠征

総勢300人以上の隊員は、イギリス式の教練を受け、筒袖に袴、両刀を腰に差し、ライフル銃を持ち、韮山笠をかぶった西洋式の軍隊として編成されました。慶応4年（1868年）には、島原藩、大村藩、平戸藩、佐賀藩、福岡藩、秋月藩の諸藩兵が奥羽へ出征する際、振遠隊も自ら参加を志願しました。

7月19日、振遠隊はイギリス船フィロン号で長崎港を出発し、海路で秋田へ上陸しました。7月24日に秋田領舟川に到着し、26日には勤王派の秋田城下に入り、角間川の戦いに臨みました。庄内藩の酒井忠篤の軍との戦闘では敗走を余儀なくされましたが、その後、南部藩が降伏したことを受け、9月29日には南部藩雫石に転戦し、雫石・橋場口の戦いを起こしました。10月2日には盛岡城に入城しました。

戦功を認められた振遠隊は、10月19日に凱旋の途につき、仙台、福島、宇都宮を経て、12月12日に京都に入りました。御所で酒肴を下賜された後、大阪から神戸に出て16日にロシア船コレア号に乗船し、12月20日に長崎に帰還しました。この遠征では、戦死13名、病死4名、負傷13名という犠牲者を出しました。

長崎に凱旋した振遠隊には論功行賞が行われ、隊長の石田栄吉は短刀一振と金子2万疋の特勲恩賞を授与されました。しかし、明治5年（1872年）に隊は解散しました。

振遠隊の合祀

戦没者17名は、明治元年（1868年）12月に楠稲荷社内の招魂場に祀られ、後に佐古招魂社に合祀されました。この招魂社は、後に長崎県護国神社となりました。

参考文献

赤瀬浩『「株式会社」長崎出島』講談社選書メチエ ISBN 4-06-258336-4
外山幹夫『長崎 歴史の旅』朝日新聞社 ISBN 4-02-259511-6
『長崎県の歴史』 山川出版社 ISBN 4-634-32420-2
『長崎県大百科事典』 長崎新聞社
『長崎県の地名 日本歴史地名大系43』 平凡社

関連項目

戊辰戦争

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