霧信号所

霧信号所（きりしんごうしょ）

霧信号所とは、視界不良時に音を用いて船舶に自らの位置や方向を知らせる航路標識の一種です。特に霧や吹雪など、視界が著しく低下する状況下でその役割を発揮します。霧笛（むてき、英語：foghorn）という名称でも知られていますが、船舶が用いる汽笛による霧中信号と混同される場合があります。

概要

古来より、灯台は光を利用して船舶に危険な場所を知らせてきました。しかし、霧の中では光が届かないため、音を利用する試みが始まりました。霧信号所は音を用いるため、暴風や荒波などの騒音、空気の層による反響の影響を受けやすいという弱点があります。多くは灯台に併設されており、音を鳴らす時間と止める時間の組み合わせ（周期）が信号所ごとに異なるため、音源を識別できるようになっています。音の発信方式は主にダイヤフラムホーンが用いられていましたが、かつて存在した犬吠埼霧信号所ではエアサイレンが採用されていました。

20世紀以降、電気技術が発展し、地上系電波航法システムLORAN、舶用レーダー、GPSなどの航海計器が普及したことで、視界不良時でも容易に測位が可能になりました。そのため、海上保安庁は2007年（平成19年）8月に、2009年（平成21年）度末までの3年間で全国の霧信号所を順次廃止する方針を発表しました。2010年（平成22年）3月31日をもって海上保安庁が管轄する霧信号所は全て廃止されましたが、漁業協同組合などが代替機を設置し、稼働させている例も存在します。

種類

霧信号所は、音の発信方式によっていくつかの種類に分けられます。

霧砲（fog guns、ロケット）: 18世紀のヨーロッパで使用された初期の音響航法支援システムです。しかし、火薬の消費量が多かったため、廃止されました。
鐘: 1837年、アメリカのウェストクォディヘッド灯台で手動の鐘が使用されましたが、手間がかかるためすぐに機械化が求められました。国際規約では霧の間、船舶も鐘を鳴らすこととされていましたが、イスラム教では鐘を鳴らすことが禁じられていたため、特例として銃やゴングが使用されました。
馬力霧信号（スチームホイッスル）: 1857年、ビーバーテイル灯台で蒸気を使った汽笛による信号が使用されました。しかし、ヨーロッパでは汽笛の信号が船の所在を示すものと誤解され、事故につながる可能性があると考えられたため、採用は避けられました。1870年代には、トランペット、ホイッスル、ベル、サイレンの実験が行われました。
電気式サイレン: 20世紀前後に採用されました。
Diaphone: 20世紀前後にカナダの企業が発明し、多くの灯台で使用されました。
ダイヤフラムホーン（電磁式発信器）: 電磁力で発音板を振動させて音を出す方式です。日本ではかつて主流でした。
エアサイレン（圧搾空気方式）: 圧縮空気でサイレンを鳴らす方式です。日本では犬吠埼灯台が最後まで使用していましたが、同灯台の霧信号所閉鎖（2008年3月31日）により、この方式を採用している灯台はなくなりました。
その他（Echo Boards）: 岸壁などに「く」の字型の反響板を設置し、船からの汽笛の反響音から危険な場所を知らせる仕組みです。

日本の霧信号所の歴史

1877年（明治10年）11月20日 - 尻屋埼灯台（青森県東通村）に日本初の霧鐘が設置されました。
1879年（明治12年）12月20日 - 尻屋埼灯台に蒸気式霧笛が採用されました。これを記念して12月20日が霧笛記念日となっています。
1888年（明治21年）9月15日 - 白神岬霧警号にて初のエアサイレン（圧搾空気方式）が採用されました。
1900年（明治33年）2月15日 - 襟裳岬灯台の霧笛用動力源として、初の石油発動機関が採用されました。
1903年（明治36年）2月20日 - 平舘霧警号に初のダイヤホーンが採用されました。
1925年（大正14年）4月12日 - 青森港霧信号所で初のモーターサイレンが採用されました。
1954年（昭和29年）2月22日 - 釧路港南防波堤霧信号所に初のダイヤフラムホーン（電磁式発信器）が採用されました。
1965年（昭和40年）3月 - 落石岬灯台の霧信号所に初の自動霧探知装置（バックスキャッター式）が採用されました。
1974年（昭和49年）3月29日 - 焼尻島霧信号所で霧信号装置の自動遠隔制御が開始されました。
2008年（平成20年）3月31日 - 犬吠埼灯台の霧信号所が閉鎖されました。
2009年（平成21年）3月19日 - 宗谷岬灯台の霧信号所が閉鎖されました。
2010年（平成22年）3月31日 - 日和山灯台の霧信号所が閉鎖され、海上保安庁所管の霧信号所が全て廃止となりました。

芸術作品と霧笛

霧信号所や霧笛は、映画や音楽などの芸術作品にも登場しています。

喜びも悲しみも幾歳月 - 映画のクライマックスで、灯台の霧笛に客船の霧笛が答えるシーンがあります。
霧笛が俺を呼んでいる - 赤木圭一郎主演の映画。同名主題歌もヒットしました。
霧笛 - 朝日新聞連載の大佛次郎の小説を原作とした1934年公開の映画。
霧笛 - レイ・ブラッドベリの短編集『太陽の黄金の林檎』に収録されている作品。萩尾望都によりコミック化されました。
* 恋と霧笛と銀時計 - 宝塚歌劇団のミュージカル作品。

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