青年の肖像 (ボッティチェッリ、ロンドン)

サンドロ・ボッティチェッリの『青年の肖像』は、1483年頃に制作されたテンペラ画で、イタリア・ルネサンス美術における肖像画の革新を示す重要な作品です。ロンドンのナショナル・ギャラリーに所蔵されています。本作は、小さな板に描かれた肖像画でありながら、当時の肖像画の慣習を打ち破る画期的な試みがなされています。

それまでイタリアの肖像画は、人物の横顔、もしくは顔の四分の三を向かせた姿を描くのが一般的でした。しかし、この作品では、青年が正面を向いて座っているため、顔全体を捉えることが可能となり、これは当時の肖像画としては非常に珍しいものでした。この大胆な構図は、後の肖像画の表現に大きな影響を与えたと考えられています。

『青年の肖像』は、制作当初から他の画家の作品と混同されることがありました。ジョルジョーネやフィリッピーノ・リッピの作品とされたり、さらにはマサッチオの自画像だと信じられた時期もありました。しかし、現在では、ボッティチェッリの作品として広く認識されています。ボッティチェッリが描いた正面向きの肖像画は、この作品が唯一とされており、その希少性からも非常に重要な作品と見なされています。

描かれている青年は、フィレンツェ出身の若い都市居住者であると考えられていますが、その身元は現在も特定されていません。しかし、その顔立ちや服装から、当時のフィレンツェの裕福な市民階級の若者であることが推測されます。若々しい表情と、正面を見据える視線には、当時の青年たちの自信と希望が感じられ、見る者に強い印象を与えます。

ボッティチェッリの卓越した技術と、肖像画に対する新たなアプローチが融合したこの作品は、ルネサンス美術における肖像画の発展を語る上で欠かせない存在です。ナショナル・ギャラリーに収蔵されている本作は、多くの美術愛好家を魅了し続けています。

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